旧技能実習生はどうなる?育成就労制度への移行に伴う経過措置と企業の対応策
令和9年(2027年)4月1日、日本の外国人材受け入れの歴史において大きな転換点となる「育成就労制度」が施行されます。これまで多くの企業で人材育成や人手不足解消の重要な枠組みとして機能してきた「技能実習制度」は、これに伴い発展的に解消されることになります。
新制度の最大の目的は、「特定技能制度」へのシームレスな移行を見据え、日本国内での3年間の就労を通じて即戦力となる人材を育成・確保することです。制度の抜本的な見直しが報道される中、現在技能実習生を受け入れている企業や、これから令和9年春までに受け入れを予定している企業の皆様にとって最大の懸念は、「今いる技能実習生(旧技能実習生)の扱いはどうなってしまうのか?」ということではないでしょうか。
結論から申し上げますと、制度が切り替わるからといって、現在実習中の外国人が直ちに帰国を余儀なくされるわけではありません。国は現場の混乱を避けるため、詳細かつ手厚い「経過措置」を設けています。本記事では、公的資料「技能実習制度の育成就労への移行に伴う経過措置」や「育成就労制度 運用要領」に基づき、旧技能実習生の取り扱いや、各段階における移行のルール、育成就労制度への乗り換え、そして企業が取るべき対応策について、徹底解説します。
第1章:施行日(令和9年4月1日)をまたぐ技能実習の基本ルール
まず大前提として、育成就労法の施行日である令和9年4月1日より前に認定を受けた技能実習計画に基づき、施行日時点で現に技能実習を行っている外国人は、施行日以降も引き続き「技能実習」の在留資格のまま、従前の例により実習を継続することが認められます。つまり、制度が変わった翌日からも、昨日と同じように実習を続けることが可能です。
さらに、施行日前に手続きを進めていたケースへの配慮として、以下の条件に当てはまる場合も経過措置の対象となります。
- 施行日より前に技能実習計画の認定と在留資格認定証明書の交付を受けていた場合: 令和9年6月30日までに入国すれば、引き続き技能実習の対象となります。
- 施行日より前に計画申請をしたものの、認定が施行日以降にずれ込んだ場合: 実習開始日が令和9年6月30日以前であることが必要であり、原則として同日までに入国することで技能実習を行えます。
このように、令和9年6月末までに入国する実習生については、旧制度の枠組みで受け入れる猶予期間が設けられています。ただし、施行日である令和9年4月1日以降に、全く新しい技能実習計画の認定申請を行うことはできません。今後の新規受け入れは、全て「育成就労制度」の枠組みへと一本化されます。
第2章:技能実習の段階別(1号・2号・3号)移行ルールの詳細
技能実習生が現在の実習段階を終え、次の段階へ進む際のルールは、段階ごとに異なります。ここを正確に把握していないと、外国人のキャリアプランが崩れてしまう可能性があるため注意が必要です。
■ 技能実習1号から技能実習2号への移行 施行日以降に技能実習1号を修了した者は、引き続き技能実習2号に進むことができます。この点は従来と大きく変わりません。
■ 技能実習2号から技能実習3号への移行(要注意ポイント) 最も注意すべきは、優良な企業にのみ認められている技能実習3号への移行です。経過措置により技能実習3号へ進むためには、**「施行日(令和9年4月1日)の時点において、技能実習2号を1年以上行っていること」**という厳格な条件が設定されています。 例えば、令和8年5月に技能実習2号を開始した実習生は、施行日の段階で2号を11か月しか行っていないため、技能実習3号へ移行することはできません。この場合、2号修了後は、特定技能への移行を目指すか、後述する育成就労制度へ切り替えるかの選択を迫られることになります。
■ 実習の中断と再開 病気や怪我等、やむを得ない事情によって技能実習計画を中断せざるを得ない場合もあるでしょう。この場合、施行日以降であっても、技能実習計画の変更認定の手続きを経ることで実習を再開し、変更後の計画に基づき技能実習を行うことが可能です。
第3章:在留資格の変更・更新に関する落とし穴
経過措置の対象となる技能実習生は、施行日以降も引き続き「技能実習」の在留期間の更新許可を受けることができます。また、前述の通り条件を満たせば、技能実習1号から2号へ、2号から3号への「在留資格の変更許可」も受けられます。
しかし、ここで非常に重要な注意事項があります。 施行日以降に、一度でも「技能実習」以外の在留資格に変更した場合、その後再び「技能実習」の在留資格へ戻る(変更する)ことは認められません。 実務上よくあるケースとして、病気や妊娠・出産などで実習を長期間中断する際、一時的に「特定活動」などの在留資格に変更することがあります。しかし、新制度施行後にこれを行ってしまうと、「技能実習」への復帰ルートが絶たれてしまいます。 また、経過措置期間中であっても、現在技能実習を行っている実習生が「育成就労」の在留資格に直接変更することはできません。
第4章:旧技能実習生を「育成就労制度」へ移行(乗り換え)させるには?
現在の技能実習生を、新制度である「育成就労制度」の対象として受け入れ直す(乗り換える)ルートも、法律上用意されています。この特例を利用する場合、いくつか重要なルールがあります。
■ 実習期間の「通算」ルール 旧技能実習生を対象として新たな育成就労計画の認定を受ける場合、「技能実習を行っていた期間」は「育成就労の対象となっていた期間」とみなして計算されます。育成就労制度は原則として「通算して3年以内」の就労を前提としています。 したがって、例えばすでに技能実習を2年間行っていた実習生が育成就労へ移行する場合、育成就労として働ける残りの期間は「1年」となります。新たにゼロから3年間働けるわけではない点に注意が必要です。
■ 業務内容の同一性と例外措置 育成就労への移行認定を受けるためには、従事させる業務において要する技能およびその育成就労産業分野が、**従前の認定技能実習計画に定められていたものとそれぞれ同一(密接に関連するものを含む)**でなければなりません。育成就労制度では、特定技能制度と同じ「産業分野」および「業務区分」が設定されます。 もし、従前の技能実習で目標としていた技能検定等が育成就労の目標試験として指定されていない場合や、従前の実習で習得した技能が新制度の産業分野に属する技能に該当しない場合は、例外的に別の技能・業務区分での育成就労への移行が認められる「やむを得ない事情」に関する特例措置が講じられています。
第5章:企業の「受入れ人数枠」の計算方法はこう変わる
企業にとって極めて実務的な影響を及ぼすのが、外国人の受入れ人数の上限(人数枠)に関する取り扱いです。育成就労制度では、企業の常勤職員数に応じて、受け入れ可能な育成就労外国人の基本人数枠(最大で常勤職員の15%〜)が定められています。 経過措置により引き続き技能実習を行う旧技能実習生は、この人数枠の計算において次のように扱われます。
- 1号および2号技能実習生の場合: 施行日以降も引き続き在籍している1号技能実習生および2号技能実習生の数は、育成就労外国人の受入れ人数枠の計算において**「育成就労外国人の数」として計算(合算)されます**。つまり、既存の1号・2号実習生が多く在籍している場合、新たに育成就労外国人を受け入れるための空き枠はその分だけ少なくなります。
- 3号技能実習生の場合: 一方、引き続き技能実習を行っている3号技能実習生については、従前の技能実習法に基づく人数枠規制は引き続き受けますが、育成就労法上の「育成就労外国人」の数としてはカウントされず、育成就労法の人数枠規制は受けません。
今後の採用計画を立てる際は、自社の常勤職員数と在籍する実習生の段階を正確に把握し、枠の空き状況を予測しておく必要があります。
第6章:企業が今すぐ取るべき「5つの対応策」
令和9年春の制度施行に向け、企業は猶予期間にあぐらをかくことなく、今のうちから計画的な準備を進めることが不可欠です。
対応策1:在籍する技能実習生のスケジュールの完全把握 まずは、現在雇用している、あるいは今後令和9年3月末までに入国予定の実習生全員のスケジュールを一覧化してください。特に「技能実習3号」への移行を計画している場合、「令和9年4月1日時点で2号を1年以上行っているか」というデッドラインを越えられるかどうかの検証が最優先事項です。満たせない場合は、実習修了後に特定技能へ移行するか、育成就労へ切り替えるかの判断が必要になります。
対応策2:自社の業務が新制度のどの「分野・業務区分」に該当するかの確認 育成就労制度は、特定技能制度と連動した産業分野で運用されます。これまで技能実習の「職種・作業」で受け入れていた業務が、新制度ではどの「産業分野」の「業務区分」に当てはまるのかを、経済産業省など各所管省庁が発表する「分野別運用方針」で確認してください。
対応策3:特定技能・育成就労への移行を見据えた「日本語教育・技能教育」の強化 新制度の最大の目的は、特定技能1号水準の技能と日本語能力(A2相当)を持った人材の育成です。企業として日本語学習の機会を提供し、技能検定や特定技能評価試験への合格をバックアップする体制を整えるべきです。試験に合格できないと、外国人材のキャリアアップの道が閉ざされてしまいます。
対応策4:新制度の要件(待遇・指導体制)への適合準備 育成就労制度は、日本人と同等以上の報酬の支払い、適切な宿泊施設の確保、育成就労責任者・指導員・生活相談員の配置と指定講習の受講などが求められます。また「本人の意向による転籍」が導入されることで、待遇の悪い企業からは人材が流出するリスクが高まります。今のうちから、「外国人材から選ばれる企業」になるための労働環境の改善に着手しましょう。
対応策5:手続きの電子化と支援システムの活用(JITCOサポート等) 新制度への移行に伴い、技能実習の継続や育成就労計画の作成、変更届出など、企業や監理支援機関が作成すべき書類は膨大になります。こうした煩雑な事務作業を効率化するためには、外部の支援システムを積極的に活用することが有効です。 例えば、国際人材協力機構(JITCO)が提供する「JITCOサポート」は、申請書類をクラウド上で一元管理し、Excel形式で自動出力できる機能を提供しています(育成就労制度向け書類も準備中とのことです)。賛助会員と傘下の企業が同じ画面を見ながら書類作成を行える機能や、入管オンライン申請の代行、勤怠・給与管理機能なども備わっており、事務負担を大幅に軽減できます。制度移行期の混乱を乗り切るためにも、こうしたITツールの導入を検討することをお勧めします。
まとめ
「旧技能実習生はどうなるのか」という疑問に対する答えは、「当面の間は現在の枠組みで実習を継続できる手厚い経過措置があるため、焦る必要はない」です。 しかし、その経過措置にも「3号移行の条件」や「在留資格変更の制限」といった落とし穴が存在します。企業は制度のルールの詳細を正しく理解し、一人ひとりの外国人材にとって最適なキャリアパスを提示する責任があります。
令和9年の育成就労制度スタートは、日本の労働市場における外国人材の立ち位置を根本から変えるものです。この移行期間を「単なる猶予」と捉えるか、「新しい時代に向けた組織変革の準備期間」と捉えるかで、今後の企業の成長は大きく分かれるでしょう。自社の受け入れ体制を今一度見直し、共に育ち、共に働くための環境づくりを今日から始めていきましょう。
