育成就労実施者が知っておくべき「3つの責任者(責任者・指導員・生活相談員)」の要件
令和9年(2027年)4月から、外国人材の育成と確保を目的とした新たな制度「育成就労制度」がスタートします。この新制度において、受け入れ企業(育成就労実施者)には、外国人を単なる労働力として扱うのではなく、計画的に技能を教え、日本社会での生活をサポートする重い責任が課せられます。
その中核となるのが、企業内で選任が義務付けられている**「育成就労責任者」「育成就労指導員」「生活相談員」**の3つの役職です。これら3つの責任者が適切に機能してこそ、外国人は安心して働き、目標である特定技能1号水準へとステップアップすることができます。
本記事では、公表された「育成就労制度 運用要領」に基づき、これら3つの役職に求められる要件と役割、そして企業が実務上直面しがちな疑問点について徹底解説します。
第1章:3つの責任者に共通する「4つの基本要件」
育成就労責任者、育成就労指導員、生活相談員の3役職には、それぞれ独自の要件が設定されていますが、まずは全員に共通して求められる「4つの基本要件」を押さえておく必要があります,,。
- 欠格事由に該当しないこと 育成就労法で定める欠格事由(法第10条第1号から第10号)に該当する者は、責任者に就くことができません。具体的には、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終えた日から5年を経過していない者や、過去5年以内に出入国又は労働に関する法令(育成就労法令を含む)に関し不正又は著しく不当な行為をした者が該当します,。
- 未成年者(18歳未満)でないこと 責任ある立場で育成・指導を行うため、認定時において18歳未満である未成年者は選任できません,。
- 常勤の役員又は職員であること 原則として、育成就労実施者に継続的に雇用されている常勤の役職員であることが求められます。なお、日給や月給などの給与形態は問わず、フルタイムの正社員と同様の就業時間で継続的に勤務していれば該当します。また、移籍型出向者についても常勤職員として取り扱うことが可能です。
- 過去3年以内に「養成講習」を修了していること 各役職に対応する養成講習(主務大臣が適当と認めて告示した機関が実施する講習)を、過去3年以内に修了している必要があります,,。この「過去3年以内」とは、育成就労計画の認定時を起算日として判断されます。
これらの基本要件を満たした上で、それぞれの役職に応じた固有の要件をクリアする必要があります。
第2章:【育成就労責任者】の役割と要件
育成就労責任者は、自社における育成就労プログラム全体の総責任者であり、監督の要となるポジションです。
育成就労責任者の主な役割
育成就労責任者は、自己以外の育成就労指導員や生活相談員、その他の育成就労に関与する職員を監督し、育成の進捗状況を管理する義務を負います,。具体的には、以下の事項を統括管理します,。
- 育成就労計画の作成
- 修得した技能および日本語能力の評価(試験の準備等)
- 行政機関(機構等)に対する届出、報告、通知等の手続
- 帳簿書類の作成と備え付け、実施状況報告書の作成
- 外国人の受け入れ準備、保護、労働条件・安全衛生の管理
- 監理型の場合は、監理支援機関との連絡調整
育成就労責任者特有の要件
この役職には、上記のような幅広い業務を統括する能力が求められるため、**「自己以外の育成就労指導員、生活相談員その他の育成就労に関与する職員を監督することができる立場にある者」**を選任しなければなりません,。 したがって、業務経験の浅い新人職員等を育成就労責任者に選任することは認められません。一方で、育成就労を行わせる事業所(工場や店舗など)に直接所属している必要はなく、本社等の管理部門に所属する役職員であっても、監督する立場にあれば選任が可能です。
第3章:【育成就労指導員】の役割と要件
育成就労指導員は、現場で実際に外国人に技能を教え、日々の育成を行うキーパーソンです。
育成就労指導員の主な役割
育成就労の現場において、育成就労計画で定められた必須業務や安全衛生業務などを直接指導します,。
育成就労指導員特有の要件
技能を教える立場であるため、以下の2つの固有要件が設定されています。
- 事業所に所属していること: 育成就労外国人を直接指導する必要があるため、本社等ではなく、実際に育成就労を行わせる事業所(工場など)に所属して勤務する者でなければなりません,。
- 5年以上の実務経験: 従事させる業務において要する技能について、育成就労計画の認定申請の時点で「5年以上の経験」を有している必要があります,。
- この経験は自社での経験に限定されず、他社での同種の業務経験年数も含めることができます。
- 必ずしも常勤職員としての勤務経験に限られませんが、外国人を十分に指導できるよう、必要な技能に習熟していると認められる程度の実務経験が求められます。
- 運用要領では、指導対象となる技能検定等の2級合格者などの有資格者であることが望ましいとされています。
現場指導における留意点
育成就労を継続して行わせる体制を整備するためには、必ずしも指導員と外国人が常に同じ時間帯に勤務することまで求めるものではありませんが、指導が適切に行われるよう、指導員を複数人選任する等の体制整備が望まれます。交代制勤務(夜勤など)がある場合も、可能な範囲でシフトを調整し、直接指導できる体制を整える必要があります。また、建設業のように様々な現場に出向く場合は、1人の指導員が複数現場を巡回して指導することも認められます。
第4章:【生活相談員】の役割と要件
生活相談員は、言葉や文化の壁に直面する外国人が、日本で孤立することなく安心して生活できるようサポートする役割を担います。
生活相談員の主な役割
育成就労外国人の生活面に関する相談に応じ、必要な助言を行います,。
- ルール・マナーの指導: ゴミ出し等の地域ルールの周知、自転車乗車時のヘルメット着用や交通ルールの遵守、海や川での水難事故防止の注意喚起など。
- メンタルヘルス・体調管理: 職場の人間関係の悩みへの対応や、体調不良時に早期の病院受診を促すことなど。
生活相談員特有の要件
生活相談員には、指導員のような5年以上の実務経験といった専門スキルは求められませんが、以下の要件があります。
- 事業所に所属していること: 外国人からの日々の相談・助言に対応する必要があるため、育成就労指導員と同様に、育成就労を行わせる事業所(工場など)に所属して勤務する者を選任しなければなりません,。
なお、生活相談員が全ての相談対応を自ら行わなければならないわけではなく、補助者を付けて対応することも可能です。
第5章:企業が抱きがちな疑問・実務上の留意点
3つの責任者の選任に関して、企業から多く寄せられる実務上の疑問点にお答えします。
Q1: 3つの役職を1人で「兼務」することは可能か?
A: 可能です。 育成就労責任者、育成就労指導員、生活相談員は、各々に求められる要件(欠格事由非該当、常勤性、講習の受講、経験年数等)を備えていれば、1人の役職員が兼務することが認められています。ただし、業務量が過大になり育成や保護がおろそかにならないよう、受け入れ人数に応じた適切な体制整備が必要です。
Q2: 複数の事業所がある場合、1人の責任者が複数事業所を兼任できるか?
A: 原則として不可ですが、リモートでのサポートは可能です。 複数の事業所で育成就労を行わせる場合、同一の人物を複数の事業所の指導員や生活相談員として選任することはできません,。各事業所ごとに適切に責任者を選任する必要があります,。ただし、それぞれの事業所に適正な人員が配置されていることを前提に、ある事業所の指導員や相談員が、リモートワーク等の手段を用いて他の事業所の指導や相談業務をサポート(一部従事)することは妨げられません,。
Q3: 労働者派遣等の形態(農業・漁業等)の場合はどうなるか?
A: 派遣元と派遣先で役割分担が生じます。 季節変動が激しい農業・漁業等で認められる「労働者派遣等の形態による監理型育成就労」の場合、育成就労責任者の選任方法が少し特殊になります。 派遣元事業主等の事業所(実際に就労しない管理のみの事業所を含む)と、実際の就労先である派遣先の事業所の「両方」に、育成就労責任者等を選任する必要があります,。そして、計画の作成や行政手続、帳簿の作成は派遣元の責任者が統括し、日頃の試験対策や安全衛生の管理は派遣先の責任者が担うといった明確な役割分担が法令で定められています,。
第6章:旧技能実習制度からの移行と「養成講習」の経過措置
新制度において選任される責任者は、原則として育成就労制度向けの新たな「養成講習」を受講する必要があります。しかし、現在「技能実習制度」を活用している企業がスムーズに新制度へ移行できるよう、当分の間は以下の経過措置が設けられています。
技能実習制度において受講した講習が、新制度の要件を満たすものとしてみなされます。
- 育成就労責任者: 「技能実習責任者講習」の修了で代替可能。
- 育成就労指導員: 「技能実習指導員講習」の修了で代替可能。
- 生活相談員: 「生活指導員講習」の修了で代替可能。
【重要な注意点】 これらの講習修了証は、**「育成就労計画の認定申請の時点で、受講日から過去3年以内」**のものでなければなりません。認定時だけでなく、認定後も継続して有効期間内である必要があります。申請の直前に期限が切れるような場合は、余裕をもって再受講しておくことが強く推奨されています。
まとめ
育成就労制度における「育成就労責任者」「育成就労指導員」「生活相談員」は、単なる書類上の名前ではなく、外国人材が日本で着実に技能を身につけ、安心して生活するための土台となる存在です。
特に、一定の条件下で「転籍」が認められる新制度においては、指導員による丁寧な技能教育や、生活相談員による親身なメンタルケアが、**「外国人から選ばれ、長く定着してもらう企業」**になるための最大の鍵となります。
令和9年の制度開始に向けて、自社で要件を満たす人材が誰になるのか、あるいは誰を育成すべきなのか。そして、3年ごとの講習受講のスケジュール管理はどうするのか。今のうちから社内の体制を棚卸しし、計画的な人事配置を進めておくことが、新制度を成功させるための第一歩です。
※免責事項:本記事は令和8年2月発行の「育成就労制度 運用要領」等に基づき作成しています。実際の運用にあたっては、出入国在留管理庁、厚生労働省、外国人育成就労機構等の公式発表を必ずご確認ください。
