
令和5年の法改正により、法務大臣は、外国人が退去強制対象者に該当する場合であっても、当該外国人からの申請により又は職権で、在留を特別に許可することができるとされました。(出入国管理及び難民認定法第50条第1項参照)これを受け、出入国在留管理庁WEBサイトにおいて、「在留特別許可に係るガイドライン」を公表しています。
法務大臣は、外国人が退去強制対象者に該当する場合であつても、次の各号のいずれかに該当するときは、当該外国人からの申請により又は職権で、法務省令で定めるところにより、当該外国人の在留を特別に許可することができる。
出入国管理及び難民認定法第50条第1項 抜粋
ただし、当該外国人が無期若しくは一年を超える拘禁刑に処せられた者(刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。)又は第二十四条第三号の二、第三号の三若しくは第四号ハ若しくはオからヨまでのいずれかに該当する者である場合は、本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る。
「在留特別許可に係るガイドライン」を要約してまとめてみました。ガイドラインの全容は、出入国在留管理庁のWEBサイトでご確認ください。
ガイドラインの位置付け等
改正法における在留特別許可に係る規定
改正法により、法務大臣は外国人が退去強制対象者に該当する場合であっても、
- 永住許可を受けているとき
- かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき
- 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき
- 難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けているとき
- その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があるとき
は、申請により又は職権で在留を特別に許可できる。
ただし、当該外国人が無期もしくは一年を超える拘禁刑(実刑)に処せられるなど一定の前科を有する者又は一定の退去強制事由に該当する者である場合は、特別の事情がない限り、在留特別許可はされない。
在留特別許可の判断は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実及び人道上の配慮の必要性を考慮するほか、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情を考慮することを明示(同条第5項)
在留特別許可の性質
在留特別許可の判断は、法務大臣の極めて広範な裁量に委ねられており、在留特別許可をするかどうかについては、個々の事案ごとに諸般の事情を総合的に考慮して判断されるものであり、改正法によっても従来通りの性質に変わりはないこと。
ガイドラインの位置付け
本改定は、在留特別許可に関する従来の判断の在り方を変えるものではなく、我が国に不法に在留している期間が長いことについては、出入国在留管理秩序を侵害しているという観点から消極的に評価する一方、本邦で家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性を積極的に評価、また、その間の生活の中で構築された日本人の地域社会(学校、自治会等。以下「地域社会」という。)との関係も積極的に評価することを明確にする。
入管法第50条第5項に掲げる考慮事情の評価に関する考え方
在留を希望する理由
在留特別許可をするかどうかの判断において基本となるものであるが、後に掲げる事情とどのように関連するかという観点で考慮していく。
家族関係
家族関係は、在留特別許可をするかどうかの判断において、重要な要素となり得るものであり、中でも、家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性は積極要素として考慮される。その上で、特に考慮する積極要素としては以下が挙げられる。(後記する素行として分類される当該外国人やその家族と、日本人や地域社会との結びつきについても併せて考慮)
- 日本人又は特別永住者との家族関係 ア)日本人又は特別永住者との間に出生した実子、イ)日本人又は特別永住者との間に出生した実子を扶養しており、かつ、(ア)当該実子が未成年かつ未婚。又は成年でるものの身体的若しくは精神的障害による監護を要すること。(イ)当該実子と現に相当期間同居し、当該実子を監護及び養育していること。ウ)日本人又は特別永住者と法的に婚姻している場合であって、夫婦として相当期間共同生活をし、相互に協力して扶助しており、かつ、夫婦の間に子がいるなど婚姻が安定かつ成熟していること
- 入管法別表第二に掲げる在留資格で在留する者との家族関係 ア)入管法別表第二に掲げる在留資格で在留している者の扶養を受けている未成年かつ未婚の実子であること イ)入管法別表第二に掲げる在留資格で在留している実子を扶養している場合であって、前記(1)イ、(ア)及び(イ)のいずれにも該当すること ウ)入管法別表第二に掲げる在留資格で在留している者と法的に婚姻している場合であって、夫婦として相当期間共同生活をし、相互に協力して扶助しており、かつ、夫婦の間に子がいるなど婚姻が安定かつ成熟していること
- 上記二つ以外の家族関係 ア)本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受けており、かつ、本国で初等中等教育をうけることが困難な事情が認められる場合であって、地域社会で一定の役割を果たすなど相当程度に地域社会に溶け込んでいる者と同居しており、かつ、当該者の監護及び養育を受けている実子であること イ)本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受けており、かつ、本国で初等中等教育をうけることが困難な事情が認められる実子と同居しており、かつ、当該実子を監護及び養育している場合であって、地域社会で一定の役割を果たすなど相当程度に地域社会に溶け込んでいる者であること
素行
当該外国人の素行が善良であること自体は、当然の前提であるため積極要素とはならないが、当該外国人が現に相当程度に地域社会との関係が構築されていると認められることや、地域社会に溶け込み、貢献していることなどの事情が認められる場合などにおいてはその程度に応じて積極要素として考慮される。中でも、社会、経済、文化等の各分野において本邦に貢献し不可欠な役割を担っていると認められることは特に考慮する積極要素となる。
これに対し、当該外国人の素行が善良でない場合には、その反社会性の程度に応じて消極要素として考慮される。その中でも次のものは、特に消極要件として考慮する。
当該外国人が出入国在留管理行政の根幹に関わる違反又は反社会性の高い違反に及んだこと
- 集団密航への関与、他の外国人の不法入国を容易にする行為等をおこなったことがあること
- 他の外国人の不法就労や、在留資格の偽装に関わる行為等を行ったことがあること
- 在留カード等公的書類の偽変造や不正受交付、偽変造された在留カード等の行使、所持等を行ったことがあること
- 自ら売春を行い、あるいは他人に売春を行われるなど、本邦の社会秩序を著しく乱す行為又は人権を著しく侵害する行為を行ったことがあること
当該外国人が、反社会的勢力であること
本邦に入国することとなった経緯
入国することとなった経緯に人道上の配慮の必要性等が認められる場合には、その程度に応じて積極要素として考慮され、当該外国人がインドシナ難民、第三国定住難民、中国残留邦人であることは特に考慮する積極要素となる。これに対し、不正に入国したことや、不法又は不正に入国した場合にはその経緯に認められる帰責性の程度に応じて消極要素として考慮される。
本邦に在留している期間、その間の法的地位
在留資格(別表第一の一の表又は二の表若しくは別表第二の表)に掲げる在留資格に基づく活動又は身分若しくは地位を有するものとしての活動期間が長期であることなどは積極要素として考慮される。これに対し、不法に在留している期間が長期である場合には在留管理秩序を侵害する程度が大きいといえ消極要素として考慮される。(例外有り)なお、当該外国人に関し日本国籍取得後に帰責性なく日本国籍が認められなくなった場合などにはその他の事情として積極要素として考慮するほか、本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受けているなどの事情が認められる場合はこれについても特に考慮する積極要素となる。
退去強制の理由となった事実
退去強制の対象となる外国人は、その反社会性の程度に応じて消極要素として考慮される。
人道上の配慮の必要性
人道上の配慮の必要性はその程度に応じて積極要素として考慮される。以下のものは積極要素として特に考慮される。
- 難病等により本邦での治療を必要としていること。又は治療を要する親族を看護することが必要と認められる者であること
- 難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けていなくても、当該外国人が帰国困難であることが明らかであること
- いずれの国籍又は市民権を有しておらず、いずれの国にも送還できない者であること
内外の諸情勢、本邦における不法滞在者に与える影響
国内の治安や善良な風俗の維持、労働市場の安定等の政治、社会等の諸情勢、当該外国人の本国情勢、本邦における不法滞在者に与える影響等が考慮される。
その他の事情
在留特別許可の許諾の判断は、前記に挙げたものに限られず、諸般の事情を総合的に考慮するものである。
積極要素及び消極要素の考慮の在り方等
特に考慮する積極要素が存在するからといって、必ず在留特別許可がされるというものではなく、逆に、特に考慮する消極要素が存在するからといって、一切在留特別許可がされないというものでもない。(要約すると、各考慮事情に認められる積極要素及び消極要素を総合的に勘案し、所謂比較衡量の上検討するということ。)
比較衡量論を意識した結論付け
比較衡量とは、異なる利益や権利が衝突した際に、それぞれの重要性を考慮しながらバランスを取る法的判断の手法です。裁判では、個人の権利と公共の利益が対立する場面でこの考え方が用いられました。司法の考え方をそのまま持ち込むことは適切ではありませんが、行政の長として在留特別許可を検討するにあたっては、最終的にはこれらの考え方がギリギリの判断に結論を出すための手法として意識付けされているように、ガイドラインの要旨から伺えます。いずれにしても、在留特別許可をするかどうかに関しては、法務大臣の極めて広範な裁量に委ねられているということですので、過去の判例(マクリーン事件)にもあるように、その判断に対しては容易に覆ることはないと考えるのが一般的といえます。