こんにちは、特定行政書士の中川です。
本日は、長らく実務の柱となってきた 外国人技能実習制度(技能実習制度) が、今後新たに創設される 育成就労制度 へと移行する流れの中で、関係団体・機関との「かかわり方」がどのように変化するのかを、公的資料・有識者報告書・制度概要等を参照しながら整理してまいります。実務担当者にとって、この部分がまさに“肝”となる部分ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
1.技能実習制度から育成就労制度へ:制度見直しの背景と概要
まず、なぜ技能実習制度が見直され、育成就労制度が新設されるに至ったかを整理しましょう。
① 技能実習制度の目的・経緯
技能実習制度は、開発途上国等の技能者を日本に受け入れ、日本の技術・技能を移転するという名目で1990年代前後から整備されてきた制度です。
制度上は「単純労働を補う観点では運用してはならない」とされてきました。
しかしながら、実務的には「人手不足を補う」という実態が広がり、労働環境・監理体制・職種対応などにおいて課題が指摘されてきました。
② 育成就労制度の創設
こうした背景を受けて、技能実習制度を見直し、制度の目的を「人材育成・確保」へと転換する育成就労制度が、 出入国在留管理庁 の所管で検討・立案され、 出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律 等の改正案として、2024年6月14日に参議院本会議で可決・成立しました。
育成就労制度の概要としては次のようなポイントがあります。
- 基本的に「3年間」の就労・育成期間を設ける。
- 在留資格的には、制度上「育成就労」用の計画を策定・認定し、かつ次ステップとして 特定技能制度 へ移行することを前提とする流れを形成。
- 職種(分野)について、技能実習制度で広く認められていた職種とは一部異なり、特定技能制度との整合性が重視される。
- 労働者としての待遇、支援体制、監理体制が強化される。
③ 施行時期・移行スケジュール
制度改正は既に可決された段階ですが、制度実施(運用開始)には、監理支援機関の許可制度整備・送出国との二国間取決め等、多くの準備事項が残っています。
したがって、現時点では「いつから完全運用」という明確な日付は出ておらず、移行期間・準備期間を設けた円滑な移行が想定されています。
2.関係団体・機関の役割変化:整理と比較
では、本題である「関係団体・機関とのかかわり方」の変化を、制度比較を交えながら整理します。
① 現行:監理団体・監理機関・運営機関の整理
技能実習制度の下では、主に以下の役割関係がありました。
- 外国人技能実習機構(OTIT):技能実習制度の運営・監理の中心機関。技能実習計画の認定、監理団体の許可、実地検査、実習生相談支援等を担っていました。
- 監理団体:技能実習生を派遣・受入れする実習実施者をサポート・監理する団体。
- 実習実施者(受入企業):実際に外国人技能実習生を受け入れて現場実習を行う企業。
- その他、送出側国との協定、送り出し機関、地域協議会等も関与。
② 新制度下での機関整理:育成就労制度を中心に
育成就労制度では、制度上・実務上、次のような変化・整理が明記・想定されています。
- 運営機関の交代・明確化:育成就労制度では、OTITの役割を引き継ぐ形で、いわば新たな運営主体として 外国人育成就労機構(仮称・今後の設置予定) が制度運営の中核となるイメージです。実務報告でも「制度運営の“船長”が交代するイメージ」と整理されています。
- 監理団体から「監理支援機関」へ:育成就労制度の下では、監理団体に代わり「監理支援機関」という許可制の新しい枠組みが設定される予定です。許可要件が厳格化され、外部監査義務、職員配置強化、利害関係排除などが求められています。 法務省
- 受入実施者における新たな責任:育成就労制度では、受入企業・実施者側に「育成就労責任者」「育成就労指導員」「生活相談員」などの体制整備が義務付けられる方向で報じられています。
- 送出国・送り出し機関との二国間取決め・適正化:技能実習制度で課題となってきた、送出し側との手数料、送り出し機関の管理等について、育成就労制度では二国間協定(MOC)整備や手数料抑制なども制度要件として入っています。 法務省
- 制度横断のステップ設計:育成就労制度は、最終的に特定技能制度への移行を念頭に置いた設計となっており、移行・出口戦略として見据えられています。
③ 関係機関ごとの整理(一覧)
| 機関名 | 技能実習制度での役割 | 育成就労制度での役割変化・ポイント |
|---|---|---|
| 外国人技能実習機構(OTIT) | 制度運営・監理の中心機関 | 運営主体が移行する見込み(名称変更・機能改編) |
| 外国人育成就労機構(仮称) | — | 育成就労制度の制度運営中核機関として設置予定 |
| 監理団体 | 技能実習生の受入・監理を担う団体 | 「監理支援機関」への移行・許可制・要件強化 |
| 受入実施者(企業) | 実習生を受入れて技能実習を実施 | 育成主体として「育成就労計画」の策定・遂行・支援体制整備が必要 |
| 送り出し/送出国・取次機関 | 実習生の派遣・契約手続き | 援助・適正化が強化され、二国間協定・手数料規制などが求められる |
| 支援・実務団体(例:公益財団法人 国際人材協力機構 (JITCO)) | 実務サポート、研修・講習等 | 制度改正対応・移行支援・情報提供の役割が継続・拡充 |
このように、制度変更に伴い、関係団体・機関の“役割”や“責任”の範囲、許可・監理の仕組みが大きく変わることとなります。特に実務においては「どの団体が何をするか/自組織はどこに位置付けられるか」を整理しておくことが欠かせません。
3.主な変更ポイントと実務上の留意点
ここでは、実務担当者・受入企業・監理団体等が押さえておくべき「主な変更ポイント」と、その際に留意すべき点を整理します。
① 目的の転換:国際貢献から人材確保・育成へ
技能実習制度は「技能移転・国際貢献」が目的として掲げられていましたが、育成就労制度では「人材育成・人材確保」が明確な目的となります。
これにより、受入企業・監理支援機関の“人材育成・キャリア形成”視点が求められることになります。
② 対象職種・業種の見直し
育成就労制度では、対象となる職種や業務内容が、現行の技能実習制度と完全に同一というわけではありません。むしろ、特定技能制度との整合性を意識し、「特定技能制度で定められた職種」と原則一致させる方向が報じられています。
実務上、過去に技能実習制度で受入れていた職種が新制度では対象外となる可能性もあるため、自社の職種が対象になるかの確認が重要です。
③ 在留期間・移行の仕組み
技能実習制度では最長で5年(1号+2号+3号)という在留期間設定が一般的でした。
一方、育成就労制度では、原則として「3年以内」の期間が想定されています。 法務省
また、育成就労制度では、次ステップである特定技能制度への移行を前提としています。つまり、3年間を育成期間とし、その後特定技能1号へ移行という流れが見込まれています。
④ 支援・監理体制の強化
受入企業側:育成就労制度では、企業において「育成就労責任者」「育成就労指導員」「生活相談員」などの配置が義務付けられる方向です。
監理支援機関:新制度下では監理支援機関が許可制となり、要件が厳格化(外部監査義務、職員配置、利害関係排除)されます。 厚生労働省
送り出し・送出国:二国間協定(MOC)の整備、送り出し機関の手数料適正化など、国際的な送出体制の透明化・適正化が求められます。 法務省
⑤ 労働者としての待遇と転籍可能性
技能実習制度では、研修的性格もあり、転職・転籍は原則不可という扱いでした。
育成就労制度では、一定の条件を満たせば外国人本人の希望による転籍(同一企業内・他企業へ)を認める方向が報じられています。
また、従来「研修・実習」という位置づけから「就労」つまり労働者として待遇を整える点が強化されます。
⑥ 移行・準備期間の実務的な注意点
従来の技能実習制度の許可・認定を受けていた監理団体・実習実施者は、新制度下でも「みなし規定」等により継続的な運用が可能との整理もありますが、確定情報ではないため早めの対応準備が必要です。
新制度の施行にあたり、監理支援機関・運営機構・受入企業等それぞれが許可・認定等の書類整備・内部体制構築・外部監査体制の準備などが求められます。
職種・業務内容・受入可能人数・送り出し国との取決めなど、対象条件が変わる可能性があるため、現行の契約・運用状況を見直す必要があります。
特定技能制度への移行を視野に入れた育成カリキュラム・日本語教育・技能評価制度の整備を、受入企業・監理支援機関・実務担当者が早期に計画を立てることが望まれます。
4.関連団体との関係性を実務視点で整理
ここでは、特に実務担当者が押さえておきたい「団体/機関別の関係性」を、技能実習→育成就労の流れに沿って整理します。
・運営主体(OTIT → 新機構)
現行制度では、OTITが中心的な運営機関として、技能実習制度に関して多くの実務的機能を担ってきました。育成就労制度では、この役割を新機構が担い、制度全体の方向性・監理・認定等を行うと見込まれています。
実務上は、監理団体・受入企業とも、新制度下ではこの機構を窓口・監理機関として意識しておく必要があります。
・監理団体/監理支援機関
技能実習制度における監理団体は、実習実施者と共に技能実習生の受入・実習実施・支援を担っていました。育成就労制度下では、「監理支援機関」としての許可制団体が新たに枠組みとして用意され、許可基準が厳格化されます。監理団体を運営されていた団体は、新枠組みに適合する準備(体制強化・外部監査・利害関係排除)を進める必要があります。 法務省
・受入実施者(企業)
受入企業は、技能実習制度では概ね実習生を受入れて技能を習得させるという位置づけでしたが、育成就労制度では「育成主体」として、外国人を働き手として受入れつつ、育成・キャリア形成に責任を持つという役割が求められます。日本語教育・技能評価・キャリアパス構築・待遇管理・転籍対応など、実務負担が増えることも事前に把握しておくべきです。
・支援・実務団体(JITCO等)
例えば JITCO(公益財団法人 国際人材協力機構)は、技能実習制度・特定技能制度・育成就労制度に関し、監理団体・実習実施者・登録支援機関等を対象とした実務支援(セミナー、講習会、書類チェック、相談、教材提供等)を行っています。 JITCO
実務者としては、こうした支援団体が提供する最新情報・研修・ガイドライン等を活用して早期準備を進めるのが得策です。
・送り出し・送出国・地域協議会等
技能実習制度では、送出国との協定、送り出し機関・派遣機関の手数料・契約内容等に課題がありましたが、育成就労制度ではこれらの適正化が制度設計上も明記されています。 法務省
加えて、地域協議会など地域受入体制を整備する方向も示されています。実務においては、受入地域・産業分野・協議会等の動向にも注目すべきです。
5.実務者へのチェックリストと今やるべきこと
では、実務担当者・受入企業が「今この段階で」やっておくべきことをチェックリスト形式で整理します。
- 自社が現在受入れている職種・作業内容が、新制度の対象となるか確認
- 「特定技能制度で定められた職種」と整合性があるかを調査。
- 技能実習制度で受入れていた職種がそのまま新制度で認められないケースも想定。
- 監理支援機関(旧監理団体)に関する準備
- 自社が所属している監理団体が新制度に適合する監理支援機関として許可を取得する予定か確認。
- 自社として監理支援機関との契約・体制・役割分担を整理。
- 受入企業の体制整備
- 「育成就労責任者」「育成就労指導員」「生活相談員」など配置可能か検討。
- 日本語教育・技能教育・キャリアパス・転籍・評価制度等を含めた「育成就労計画」の策定準備。 厚生労働省
- 労働法令・就業規則・待遇・転籍ルールなど、外国人を「労働者」として受入れる視点での見直し。
- 送出・契約・手続き関連の確認
- 送出国との二国間協定(MOC)や送り出し機関の手数料適正化等、契約内容の見直し。 法務省
- 雇用契約や就労条件の明確化。転籍条件・期間・評価基準等を実務的に整理。
- 移行・出口戦略の設計
- 育成就労制度から特定技能制度への移行を見据えた社員研修・技能検定・日本語学習の仕組みを構築。
- 在留期間・移行手続き・受入・契約のスケジュール管理を行う。
- モニタリング・内部監査体制の構築
- 外部監査の義務化など、監理支援機関・受入企業双方において監査・報告体制が強化される方向。 法務省
- 社内体制・記録保存・研修記録・評価記録等を今のうちに整備。
以上のチェックリストを踏まえ、「いつから何を始めるか」スケジューリングを早めに行うことが不可欠です。受入企業・監理機関ともに、準備を先送りにすることはリスクを伴います。
6.まとめ:実務におけるキーポイント
今回は、技能実習制度から育成就労制度へ転換が進む中で、「関係団体・機関とのかかわり方」を中心に整理しました。改めてポイントを整理します。
- 制度の目的が「技能移転」から「人材育成・確保」へと変化しています。
- 職種・在留期間・支援・監理体制等、制度設計の多くの部分で見直しが入ります。
- 関係機関・団体(運営機構・監理支援機関・受入企業・送り出し機関等)の役割と責任が明確に再定義されています。
- 実務においては、受入企業・監理支援機関ともに「育成主体」としての意識・体制が求められます。
- 今からできる準備として、職種確認・体制整備・契約・研修・移行設計・監査体制の構築が重要です。
この制度変更は、単に制度名が変わるというだけでなく、実務運用・受入企業の役割・関係機関の構造・外国人材のキャリア設計に至るまで大きな再編を伴うものです。実務者として、早期に情報をキャッチし、対応を進めることが信頼構築・リスク回避につながります。
今後、制度施行にあたって省令・ガイドライン・分野別運用方針等の詳細情報が公表される見込みです。私は引き続き、最新情報をフォローし、実務に直結する解説を記述していきたいと思います。
行政書士中川まさあき事務所(福井県越前市)
