「技能実習制度」がなくなる?
――いいえ、“法律の着替え”が起きるだけです
~育成就労制度への移行を、他の法律改正の例でやさしく解説~
「技能実習制度が廃止されるらしい」
「これまでの実習生はどうなるの?」
「制度が変わるって、全部リセットされるの?」
最近、こんな不安や疑問の声をよく耳にします。
結論から言えば、今回の制度改正は“突然すべてが消える”話ではありません。
これは、日本の法律ではよくある
👉 「古い法律を、時代に合った新しい法律に着替えさせる」
というタイプの改正です。
この記事では、
- 技能実習制度 → 育成就労制度の本当の意味
- なぜ「廃止」ではなく「発展的解消」なのか
- 他の法律ではどうだったのか
を、法律が苦手な方にも分かるように、具体例で解説します。
1.まず結論:今回の改正は「法的な脱皮」
今回の制度改正を一言で表すなら、
技能実習制度が、育成就労制度という新しい“器”に生まれ変わる
というものです。
確かに、法律の名前は変わります。
しかし、人も仕組みも、いきなり消えるわけではありません。
これは「廃止」ではなく、法律用語でいう
「発展的解消」+「新制度創設」
という形を取っています。
2.なぜ技能実習制度は“役目を終えた”のか
技能実習制度は、もともと
- 開発途上国への技能移転
- 国際貢献
を目的としてスタートしました。
ところが現実には、
- 日本の人手不足を補う役割を担っていた
- 実態と建前が乖離していた
- 実習生の権利保護が不十分だった
といった問題が長年指摘されてきました。
そこで国は、目的をごまかしたまま制度を続けるのではなく、正面から目的を書き換える決断をしたのです。
3.新しい「育成就労制度」の位置づけ
育成就労制度の目的は、はっきりしています。
- 日本の人手不足分野における
人材育成 - そして
人材確保
つまり、
| 制度 | 表向きの目的 |
|---|---|
| 技能実習制度 | 国際貢献 |
| 育成就労制度 | 日本国内の人材育成・確保 |
と、法律上の目的が明確に転換されたのです。
これはごまかしをやめた、極めて正直な改正だと言えます。
4.法律は「ある日突然」消えない ― 経過措置という仕組み
ここが一番大切なポイントです。
新しい法律ができても、
古い法律に基づいて始まった活動は、すぐには終わりません。
これを支えるのが
👉 経過措置(けいかそち)
という仕組みです。
技能実習制度の場合
- 施行日より前に認定された技能実習生
→ そのまま技能実習の在留資格で継続可能 - 技能実習1号 → 2号
- 条件を満たす2号 → 3号
と、最後まで“技能実習制度のルール”で完走できる設計になっています。但し、例外もあります。それは、外国人技能実習機構や出入国在留管理庁のページに記載されている通り、技能実習3号への移行ができない場合がある点です。
5.他の法律でも、同じことは何度も起きている
「古い法律が消えて、新しい法律に置き換わる」
これは珍しい話ではありません。
① 商法 → 会社法(2006年)
かつて、会社のルールは「商法」に書かれていました。
しかし、内容が複雑化しすぎたため、
- 商法の会社規定を切り出し
- 会社法として一本化
しました。
このときも、
- 既存の会社が突然無効になる
- 過去の契約が消える
そんなことは一切ありませんでした。
② 民法の大改正(2020年)
約120年ぶりに行われた民法改正。
- 契約ルールが現代化
- 保証人保護の強化
が行われましたが、
- 改正前の契約
- すでに進行中の取引
は、原則として旧ルールが適用されました。
これも典型的な「経過措置」です。
③ 労働者派遣法の度重なる改正
派遣法も、
- 登録型派遣の見直し
- 期間制限ルールの変更
など、大きな改正を何度も経験しています。
しかしそのたびに、
- すでに働いている人
- すでに結ばれている契約
は、段階的に新制度へ移行してきました。
6.技能実習 → 育成就労は「制度の引っ越し」
イメージとしては、
- 今住んでいる家を
- 壊して野宿する
のではなく、
👉 新しい家を建てて、順番に引っ越す
という感覚です。
- 旧制度で暮らしている人は、引き続きそこに住める
- 新しく来る人は、新しい家に入る
それだけの話なのです。
7.なぜ今、この「法的な脱皮」が必要だったのか
背景には、
- 深刻な人手不足
- 外国人労働者の定着の必要性
- 国際的な人権意識の高まり
があります。
建前と現実がズレた制度を続けるより、
- 目的を正直に書き換え
- ルールを分かりやすくし
- 権利保護を強める
これは、制度を使う側にとっても、働く側にとってもプラスです。
8.まとめ:消えるのは「名前」、引き継がれるのは「人と時間」
最後に、もう一度整理します。
- 技能実習制度は
→ 発展的に解消 - 育成就労制度が
→ 新しくスタート - すでにいる実習生は
→ 経過措置で守られる - 目的は
→ 国際貢献から、人材育成・人材確保へ
今回の改正は、
制度を壊す話ではありません。
時代に合わなくなった服を脱ぎ、
新しい服に着替える――
そんな「法的な脱皮」なのです。
制度を正しく理解することが、
不安を減らし、正しい対応への第一歩になります。
※本記事は、2024年6月21日公布の改正法および関連資料に基づき、一般的理解を目的として解説しています。実務対応については、専門家への個別相談をおすすめします。
