
2024年、ついに国会で成立し、官報にも公布された「育成就労制度」。従来の技能実習制度から新しい外国人雇用の仕組みへと、大きな転換期を迎えています。これから約2年以内に育成就労制度の本格施行が見込まれ、その後も3年程度は旧制度と新制度が併存。2030年頃までには「技能実習」という言葉は完全に消え、新たな枠組みの中で人材育成や外国人雇用の時代がスタートします。
北陸・福井エリアでも、製造・建設・介護・農業などさまざまな業界で多くの外国人が働いています。この大転換期に、企業や現場、行政書士・宅建士などの専門家は「今、何を準備・実践すべきなのか?」――最新の政府方針や公式見解をもとに、実務的観点から解説します。
■ 技能実習制度から育成就労制度への移行、その背景
これまでの技能実習制度は「開発途上国への技術移転」を建前に、実態は人手不足産業への就労受け皿となってきました。しかし、実習生への人権侵害や低賃金問題、「名ばかり実習」の指摘など、国際的な批判も強まり、制度自体の抜本改革が求められてきました。
政府は2023年末から有識者会議や各種パブリックコメント、外国人労働者アンケートなどを重ね、「人材育成と労働力確保の両立」を掲げる新たな制度設計を進めてきました。その結果、2024年6月、出入国管理及び難民認定法等の改正により、技能実習から「育成就労」制度へ移行することが正式に決定しました。
■ 公式見解で読み解く「今後2年でどう変わる?」
【ポイント1】2024年6月21日に公布された新法は、「3年以内施行」――最遅でも2027年6月までに育成就労制度が始まる
【ポイント2】施行後3年間は、旧・技能実習制度と新・育成就労制度が併存し、段階的に移行
【ポイント3】2030年頃までに技能実習制度は完全廃止の見込み
(出典:法務省公式リリース、psrn.jp解説)
■ 政府・自治体・企業が進めている対応策(2025年時点)
政府や自治体は、法律の詳細な施行規則や運用方針の策定、日本語教育体制の強化、監理団体・受入企業への説明会やセミナーの開催、企業・技能実習生向けのFAQや相談窓口の設置など、多角的な準備を進めています。
・監理団体(監理支援機関)の許可基準が厳格化され、全ての団体が新たな許可取り直しの対象
・外部監査人の設置、透明性向上を義務化
・日本語能力(原則N4以上)や技能評価試験の受験が必須化される分野も
・企業向けに「転籍(企業間の移動)制度」の説明と体制整備
・福井県をはじめ各地方自治体では、高度外国人材受入支援事業や多文化共生のための生活支援、相談体制の拡充などを実施
■ 企業や現場は“今”何に取り組むべきか?公式見解+実務視点で解説
【1】新制度への“正しい理解”と情報アップデート
最も大切なのは、育成就労制度の目的と要件を正しく理解し、常に最新情報を入手・整理することです。施行規則やFAQは今後も改訂されます。
→ 法務省、出入国在留管理庁、各自治体や業界団体の公式発表をこまめにチェックし、現行制度と新制度の違いを把握しましょう。
【2】受入体制と人材育成方針の見直し
技能実習生や特定技能外国人の受入方針、社内マニュアルの再整備
- 新制度では「日本語教育の強化」や「キャリアパス設計」「本人希望に沿った転籍配慮」などが重視されます
- 「指導計画」「評価面談」「社内相談窓口」「メンター制度」など、より長期的視点での人材育成・サポート体制を検討しましょう。
【3】日本語能力・技能評価の強化
育成就労では「日本語能力試験(N4以上)」が原則必須(分野による例外もあり)。技能検定も強化されます
- 企業側も「入社前・在籍中の日本語教育」「資格試験受験のサポート」等の体制整備を早めに進めておきましょう。
【4】監理団体や支援機関との連携
新たな制度のもとで、監理団体の役割や責任がより重くなります。これからは許可要件も厳しくなり、外部監査・支援報告の義務も生じます。
- 監理団体や行政書士等の専門家と早めに連携し、制度変更への対応を進めることが安全・安心な受入体制のカギとなります。
【5】転籍制度・労務管理の見直し
育成就労では「外国人本人の意思による転籍」が原則認められ、業種横断的なキャリア支援も求められます。
- 労務管理や就業規則の見直し、転籍時のサポート体制づくりも必要です。
■ 福井・北陸地域での取り組み例
福井県では「高度外国人材受入支援事業」などを通じ、地元企業の外国人材受入をサポート。相談窓口の拡充や日本語教育の補助金、外国人向け生活サポート情報の発信などが積極的に行われています。
また、北陸エリアの各市町村や業界団体も、今後の育成就労制度に向けたセミナー開催、企業向けガイドブックの配布、無料相談会の開催などに取り組んでいます。特に農業・製造・建設・介護分野では、制度移行に向けた事前研修や合同企業説明会の開催が盛んになっています。
■ 今、やるべきアクションリスト
公式情報の定期チェック(法務省・出入国在留管理庁・福井県など)
- 受入体制・社内制度の現状分析と課題抽出
- 日本語教育・資格支援の強化(独自予算の確保も検討)
- 監理団体や専門家との早期連携・意見交換
- 現場従業員への新制度説明と意識改革研修
- 技能実習生・特定技能外国人との面談強化・相談体制の拡充
- 各種ガイドラインやマニュアル、就業規則のアップデート
- 自治体や業界団体主催のセミナー・研修会への積極参加
- 外国人労働者向けの生活支援(住居、医療、生活相談)の充実
- 必要に応じて行政書士等の専門家に相談し、法的リスク管理を徹底
■ まとめ・行政書士からのアドバイス
技能実習から育成就労への移行は、単なる制度変更ではありません。日本社会が本気で「共生社会」「多文化共生」に舵を切る象徴的なステップです。この過渡期は、現場の混乱や不安も避けられませんが、早めの情報収集・実務対応・社内体制強化が未来の安心につながります。
特定行政書士・申請取次行政書士として、地域の皆さま、企業の皆さまをサポートできるよう、最新情報の提供と個別相談にも力を入れています。福井・北陸の企業や現場担当者の方々は、ぜひお気軽にご相談ください。
【参考】
・法務省公式サイト:育成就労制度Q&A
・福井県 高度外国人材受入支援事業
・出入国在留管理庁・技能実習制度等の見直し
・psrn.jp:育成就労制度解説
行政書士中川まさあき事務所(福井県越前市)