寄与分・特別受益は10年で主張できなくなる?令和3年民法改正のポイントを行政書士が解説
相続に関するトラブルの中でも、「寄与分」や「特別受益」の主張は、遺産分割協議を複雑にする代表的な要因です。 これに対し、令和3年度(2021年)の民法改正により、これらの主張には10年の時効(期間制限)が設けられました。
つまり、相続開始から10年を過ぎてしまうと、寄与分や特別受益を考慮して遺産分割を求めることは原則できなくなります。 本記事では、この改正内容と実務上の注意点を、行政書士の視点からわかりやすく解説します。
1. 改正の背景:いつまでも終わらない相続トラブルの是正
これまでの法律では、相続開始から何年経っても、寄与分や特別受益を主張することが可能でした。 そのため、数十年前の相続が突然蒸し返されるようなケースも発生していました。
こうしたトラブルを防ぎ、一定期間で相続関係を確定させることを目的として、令和3年度民法改正で「民法第904条の3」が新設されました。
2. 民法第904条の3の条文(令和3年改正)
民法第904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)
前3条の規定(特別受益・寄与分)は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については適用しない。
ただし、次のいずれかに該当する場合はこの限りでない。
① 相続開始から10年以内に家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき。
② 相続開始から10年の期間満了前6か月以内に、やむを得ない事由で請求できなかった場合において、その事由が消滅した時から6か月以内に家庭裁判所に請求したとき。
3. 改正のポイント:寄与分・特別受益の「主張期限」が明確に
この改正の核心は、「寄与分」や「特別受益」を考慮できるのは、相続開始から10年以内の遺産分割に限るという点です。
- ✔ 相続開始から10年を過ぎると、寄与分や特別受益を考慮できない
- ✔ 10年以内に家庭裁判所へ遺産分割請求をしていれば適用される
- ✔ 病気や災害など「やむを得ない事由」がある場合は例外的に延長可能
例: 父が令和4年1月に亡くなった場合、令和14年1月までに遺産分割を申し立てなければ、寄与分や特別受益を考慮した請求はできなくなります。
4. この改正が意味すること
今回の10年ルールは、遺産分割の長期化を防ぎ、相続関係を早期に確定する狙いがあります。 特に、兄弟姉妹間や親族間で感情的な対立が長引くケースを減らすことが期待されています。
一方で、「親の介護をしていた」「住宅資金の援助を受けていた」など、寄与分や特別受益が争点になる事案では、期限を意識せず放置してしまうと、権利を失うリスクもあります。
注意点:
寄与分や特別受益を主張したい場合は、10年以内に遺産分割協議を開始するか、家庭裁判所へ申立てを行う必要があります。
5. 実務上の対応とアドバイス
- 相続開始後は、できるだけ早く財産関係を整理し、寄与や贈与の記録を残しておく。
- 10年を過ぎる前に、家庭裁判所への「遺産分割の申立て」を行うことで権利を確保。
- 複数の相続が絡む場合(親・祖父母など)は、時効起算点を混同しないよう注意。
- やむを得ない事由(重病・災害・行方不明者など)がある場合は、6か月以内に行動。
寄与分や特別受益を主張するには、期限と証拠が重要です。
相続開始から10年を超えると原則として主張できなくなります。
相続が発生したら早めに行政書士・弁護士などの専門家へご相談ください。
※本記事は令和3年(2021年)改正民法第904条の3に基づいて作成しています。
改正法の適用時期や家庭裁判所の手続きについては、事案ごとに確認が必要です。
