旅館業許可申請の際の留意事項

 旅館業の許可申請といっても、様々なパターンが考えられます。 比較的許可手続きが容易と考えられるケースでは、従来まで旅館業を営んでいた建物を買い取り、新たな経営者が新規に旅館業許可申請をするようなケースです。この場合は、従来まで旅館業を営んでいたという既成事実がありますので、従来まで使用していた書面等が保存されていることが多く、ある程度は要件がクリアできるという前提ですすめることができるため、比較的時間がかからないケースと考えられます。 この場合であっても、旅館の買取をした方が旅館業の許可を取得して経営する場合の他、旅館を買い取った方は不動産のみ所有し、旅館業の経営自体は建物を賃借する借主が行うというケースも考えられます。その場合は、借主が旅館業の許可申請を行うことになります。

 以上のケースの他、新たに建物を新築して旅館業を営むケースや、従来他の用途で使用されていた建物等を買い取って、用途を変更して旅館業を営むようなケースもあります。 このような場合には、前述のケースとは違って、様々な検討事項を最初から検証することになり、許可申請までにかなりの時間と労力が必要ということになります。つまり、一から要件や他の法令上の制限などをクリアしていく必要が出てくることから、必然的に事前協議事項が必要となるからです。

新規申請、変更申請、新築開業、中古物件買取開業のいずれの場合であっても、関係法令で検討が必要な事項をまとめると以下の項目が挙げられます。旅館業法のみではなく、様々な要件について検討が必要ということになります。

関係法令内容
消防法消防法令適合通知書の取得。避難経路・消火設備の設置。消防署との事前協議が望ましい。
建築基準法用途変更が必要なことが多く、構造・換気・排水などの基準を満たす必要がある。
都市計画法用途地域によっては旅館業不可の場合もある。都市計画図を確認し役所と事前相談が望ましい。
水質汚濁防止法厨房・浴室などがある場合、特定施設としての届出が必要となる場合がある。水質汚濁防止法施行令の別表第一に詳細が記載されていますが、かなり専門的です。 そのため、自治体の環境課や保健所に相談するのが確実です。
衛生管理レジオネラ菌対策、清掃、名簿管理など、衛星面の体制整備は必修。また、飲食を提供する場合は、食品衛生管理に基づく対応も必要。
条例各自治体により説明会の実施や標識設置など独自ルールがある場合もある。(例:京都市)
農地法
農地が関連する場合にはその対応が必要。
民泊との違い民泊は別の法律(住宅宿泊事業法)で管理。なお、年間180日以上営業する場合は、住宅宿泊事業法ではなく旅館業法の許可(簡易宿所営業)が必要。

以上の関連法令上の要件を確認しつつ、本来の旅館業許可要件を見ていくことになります。

【旅館業許可要件】

要件内容
営業者の適格性暴力団関係者や過去に旅館業法違反で処分を受けた者などは欠格事由に該当し、許可を受けられません。
建物・施設の構造設備準客室の広さ
採光・換気・トイレ・洗面所・浴室などの基準
フロントや玄関の構造
衛生管理体制清掃・消毒・寝具の管理などの衛生基準
食博名簿の作成・保存
食品衛生責任者などの設置
消防法適合消防法令適合通知書の取得
避難経路確保・消火設備の設置、消防計画の作成(訓練実施等)防火管理者などの設置
設置場所の適正学校、福祉施設の近隣、都市計画法や用途地域など制限区域に該当しないこと

尚、旅館業許可に際し必要となる約款に関しては、国土交通省のWEBサイトにモデル宿泊約款が掲載されていますのでそれを参考に作成することが考えられます。また、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の会員ページにも各種様式が提供されています。

このように、旅館業許可といっても旅館業法のみならず、他の法令の検討が必要になってきますので、これから新たに申請をお考えの際には参考にしていただければ幸いです。

行政書士中川まさあき事務所