行政書士がAIに任せてはいけない仕事
行政書士がAIに任せてはいけない仕事
AIの進化によって、行政書士の仕事環境も大きく変わりつつあります。 文章の下書き、条文検索、書類構成の整理など、これまで時間をかけて行っていた作業を、AIが短時間で補助してくれるようになりました。 「どこまでAIに任せてよいのか」と考える行政書士の方も多いのではないでしょうか。
結論から言えば、AIは非常に優秀な補助者になり得ます。 しかし同時に、行政書士がAIに任せてはいけない仕事も確実に存在します。 それを見誤ると、専門家としての価値そのものを損なうことになりかねません。
AIは「整理」はできても「責任」は負えない
AIが得意とするのは、情報の整理や文章の構造化です。 制度の概要をまとめたり、申請理由書のたたき台を作ったりする作業は、AIの力を借りることで大幅に効率化できます。
しかし、そこで忘れてはいけないのが、最終的な責任は誰が負うのかという点です。 行政書士業務において、提出された書類の内容について説明責任を負うのは、AIではなく行政書士本人です。 AIは結果に対して責任を取ることができません。
事実関係の取捨選択は任せてはいけない
申請書類を作成する際、すべての事実をそのまま並べればよいわけではありません。 どの事実を前面に出し、どの事実を補足説明として扱うのか。 この取捨選択は、審査実務を理解していなければできない判断です。
AIは与えられた情報をもとに文章を作成しますが、「この事実は強調すべきか」「ここは慎重に表現すべきか」といった判断までは担えません。 この部分をAI任せにすると、制度とのズレや説明不足が生じやすくなります。
依頼者の話を「そのまま信じる」危険性
行政書士の仕事では、依頼者から聞き取った内容をそのまま書類に落とし込むことはほとんどありません。 事実関係を確認し、矛盾やリスクがないかを検討する必要があります。
AIは、入力された情報を前提として処理します。 しかし、その情報が不正確だったり、一部が抜け落ちていたりする場合でも、疑問を持たずに文章を整えてしまいます。 「本当にそれで大丈夫か」を疑う作業は、人にしかできない仕事です。
審査官目線での「読み替え」は人の仕事
行政書士が果たす重要な役割の一つが、審査官の視点を想定することです。 この申請はどこが疑問に思われるか、どこで説明不足と感じられるか。 こうした読み替え作業は、実務経験に基づくものです。
AIは一般論や過去の文例をもとに文章を作ることはできますが、個別案件における「引っかかりそうなポイント」を直感的に察知することはできません。 この部分を怠ると、形式は整っていても通らない申請になります。
依頼者との対話は、代替できない
行政書士業務の中核には、依頼者との対話があります。 状況を整理し、不安を受け止め、現実的な選択肢を提示する。 このプロセスは、単なる情報提供ではありません。
AIが文章で回答することはできても、依頼者の表情や言葉の裏にある不安を感じ取ることはできません。 また、厳しい現実をどう伝えるかという配慮も、人の判断が必要です。 信頼関係を築く仕事は、AIに任せてはいけない領域です。
「できない」と伝える判断
行政書士がAIに任せてはいけない仕事の一つに、「引き受けない判断」があります。 制度上難しい案件や、リスクが高すぎる相談について、依頼を断ることも専門家の重要な役割です。
AIは、依頼を断る責任を負いません。 しかし、行政書士はその判断によって依頼者を守ることもあります。 この判断を誤ると、結果的に依頼者に大きな不利益を与える可能性があります。
AIは道具、主役は行政書士
AIを使うこと自体が問題なのではありません。 むしろ、上手に使うことで業務の質とスピードを高めることができます。 重要なのは、どこまでを道具として使い、どこからを自分の仕事として引き受けるかです。
判断、責任、対話、説明。 これらはすべて、行政書士の専門性そのものです。 ここをAIに委ねてしまうと、行政書士である意味が薄れてしまいます。
まとめ:任せてはいけないから、価値がある
行政書士がAIに任せてはいけない仕事は、手間がかかり、神経も使う仕事です。 しかし、その負荷の重さこそが、専門家としての価値を生み出しています。
AIで効率化できる部分は積極的に任せる。 その一方で、責任と判断を伴う仕事は自分が引き受ける。 この線引きを明確にすることが、これからの行政書士に求められる姿勢ではないでしょうか。 AI時代だからこそ、人にしかできない仕事が、よりはっきりと残っているのです。
行政書士中川まさあき事務所(福井県越前市)
