経営の悩みは、話すことで半分になります
経営の悩みは、話すことで半分になります
経営者の方とお話していると、ときどき同じ言葉が出てきます。
「こんなこと、今さら人に聞けないんです」
「弱いと思われたくない」
「でも、頭の中がずっとザワザワしてて……」
私は行政書士として、数字にも書類にも向き合いますが、実は一番大事なのは “経営者の胸の内”だと感じています。
それで今日は、少しだけ率直に書きます。
経営の悩みは、話すことで半分になります。
悩みの正体は「問題」より先に「感情」であることが多い
売上が落ちた。資金繰りが厳しい。人が定着しない。取引先との条件交渉がうまくいかない。
こうして並べると、いかにも「課題」っぽいですよね。
でも、私が現場でよく見るのは、その“課題”の影にある感情です。
「この判断、間違ってないだろうか」
「家族に心配をかけたくない」
「社員の前では平気な顔をしているけど、正直眠れない」
こういう気持ちが絡まると、頭の中はどんどん混線して、結局、何から手を付ければいいか分からなくなります。
そして不思議なもので、混線したまま数字を見ても、数字がさらに怖く見えてくるんです。
“原因が分からない”のではなく、“分かりたくないほど不安”になっている。そんな状態も珍しくありません。
話すと整理できる。これは根性論ではなく、実務の話です
私は昔、金融機関の現場にいたことがあります。
相談に来られる方は、最初から結論を持っているわけではありません。 うまく言葉にできず、途中で話が戻ったり、同じところをぐるぐるしたりもします。
けれど、そこからです。
“口に出して話す”ことには、頭の中の情報を並べ替える力があります。 メモに書くのとは違って、相手がいることで「自分の言葉」になっていきます。
相談の最後に、こんな一言が出ることがよくあります。
「まだ何も解決していないのに、なぜか軽くなりました」
「あ、私、ここが一番怖かったんですね」
これ、私が魔法をかけたわけではありません。
経営者ご本人の中で、悩みが“言語化”され、輪郭が出て、優先順位がつく。だから軽くなるんです。
「相談=答えをもらうこと」ではない
たまに「正解を教えてほしい」と言われます。もちろん、数字や制度、手続きの正解はあります。 ただ、経営の正解は、会社の状況・社長の価値観・社員の関係性で変わります。 だから私は、結論を押し付けるより先に、まず“何が本当の悩みか”を一緒に見つけます。
例えば、資金繰りの相談でも、表面は「月末の支払いが不安」でも、 本音は「金融機関にどう見られているか怖い」だったり、 「社員に給与を遅らせたくない」という責任感だったりします。
本音が見えると、手が打てる範囲が一気に広がります。
逆に、本音が見えないままだと、やみくもな節約や、無理な値上げ、安易な借入に走ってしまうこともある。 これは本当にもったいないです。
話すだけで“半分”になる理由(私なりの整理)
私が「半分になる」と言うのには、理由があります。感覚的な話に聞こえるかもしれませんが、 現場で何度も見てきた変化を、あえて分解するとこうです。
- 悩みの“量”が減る:頭の中で増殖していた不安が、言葉にした瞬間に止まる
- 悩みの“種類”が分かれる:数字の問題/人の問題/自分の感情が分離される
- 悩みの“順番”がつく:今すぐやること/来月でいいこと/やらなくていいことが整理される
こうなると、悩みは「漠然とした恐怖」から「扱える課題」へ変わります。
経営者の顔つきが、ふっと変わる瞬間があります。私はあの瞬間が好きです。
“相談できる相手”の条件は、実はシンプルです
相談相手は、必ずしも立派な肩書きである必要はありません。大事なのは、次の条件です。
- 途中で否定せずに、最後まで聴いてくれる
- 気持ちに寄り添いつつ、現実から目をそらさない
- 秘密を守れる(これ、当たり前ですが本当に重要です)
- 話を“盛らない”。背伸びした助言をしない
特に経営者は、普段から「判断する側」です。だからこそ、判断の前に、 いったん胸の内を出せる場所が必要になります。
補足:「家族に相談すればいい」と言われることもありますが、 家族にこそ言えない悩みもあるんですよね。家族を守りたい気持ちが強いほど、なおさらです。 それは弱さではなく、責任感だと思います。
話したあとにやることは、たった一つ。「次の一歩」を決める
話して気持ちが軽くなるだけでも十分価値があります。けれど、経営は現実が動きます。 だから最後に「次の一歩」を一つだけ決める。これが効きます。
例えば、こんな小さな一歩でいいんです。
- 今月の資金繰り表を“1枚”作る(完璧じゃなくていい)
- 利益が出ている商品と出ていない商品を、ざっくり分ける
- 金融機関に「現状報告だけ」しに行く(お願いではなく、説明)
- 採用を急ぐ前に、辞めた理由を1つだけ言語化する
「一歩」が決まると、人は前を向けます。
逆に、どんなに素晴らしい戦略があっても、次の一歩が決まらないと動けません。
あなたの悩みは、あなた一人の責任じゃない
ここ、誤解されやすいので丁寧に書きます。
経営の結果は、最終的に社長が引き受けるものです。これは事実です。
でも、悩みまで一人で抱える必要はありません。
むしろ、抱え込みすぎると判断が歪みます。歪んだ判断は、会社にも社員にも家族にも響きます。 だったら、“話して整える”ほうが、よほど責任ある態度だと私は思います。
経営の悩みは、話すことで半分になります。
残りの半分は、現実的な一歩に変えていけばいい。
もし今、頭の中がぐるぐるしているなら、まずは言葉にするところから始めませんか。
(“何を相談したらいいか分からない”という状態でも大丈夫です。そこから一緒にほどいていきましょう。)
土日・平日夜間を中心に、福井県越前市を拠点に、経営者の「数字」と「気持ち」の両方に向き合う伴走支援を行っています。 融資・経理・監査・経営企画などの現場経験を活かし、背伸びしない現実的な提案を大切にしています。
行政書士中川まさあき事務所(福井県越前市)
