福井県越前市で奮闘中の特定行政書士・申請取次行政書士です。各種許認可、相続、在留資格関連、会社経営、不動産のことでお悩みの方はお気軽にご相談ください。

自分には無理かも」と思った夜の話

自分には無理かも」と思った夜の話

自分には無理かも」と思った夜の話

その夜、私は一人で机に向かっていました。
パソコンの画面は開いたままなのに、文字は一向に進まない。
コーヒーはすっかり冷めて、部屋の時計の音だけが、やけに大きく響いていました。

「……やっぱり、自分には無理かもしれないな」

誰に聞かせるでもなく、ぽつりと出た言葉でした。

行政書士として独立し、財務や不動産コンサル、AIアドバイザーとしてもやっていく。
頭では「覚悟は決めた」「今度こそ本気だ」と思っていたはずなのに、その夜は、どうしようもない不安に包まれていました。

年齢は60代。
若さや勢いで押し切れる年齢ではありません。
体力も集中力も、正直に言えば、以前とは違う。

「今さら本当にやれるのか」
「この選択は間違っていないのか」
「家族に心配をかける結果にならないだろうか」

そんな考えが、頭の中を何度も何度も巡っていました。

私はこれまで、いくつもの仕事を経験してきました。
金融機関、会計事務所、ケーブルテレビ会社、不動産会社、そして運転士。
決して“順調なキャリア”とは言えないかもしれません。

それでも、その一つ一つの現場で、私は真剣に仕事と向き合ってきました。
数字と向き合い、人と向き合い、責任と向き合ってきた自負はあります。

だからこそ、「独立する」と決めたときは、
「もう後悔はしない」「最後までやり切る」と、自分なりに腹をくくったつもりでした。

それなのに、その夜は、その決意が音を立てて崩れそうに感じたのです。

不安の正体は、実に現実的なものでした。

「この先、安定した収入は得られるのか」
「自分を必要としてくれる人はいるのか」
「相談が来なかったらどうするのか」

独立後の日々は、結果が見えにくい作業の連続です。
給料日もなければ、評価してくれる上司もいない。

正しいことをやっているつもりでも、
“手応え”が感じられない時間が続くと、人は簡単に心が折れそうになります。

特に、真面目な人ほど。
責任感が強い人ほど。
中途半端を嫌う人ほど。

そんな中、私は一つの決断をしました。
再び、兼業の行政書士に戻るという選択です。

一見すると、「後退」や「遠回り」に見えるかもしれません。
自分自身も、正直、迷いがなかったわけではありません。

「せっかく独立したのに」
「また雇われる立場に戻るのか」
「プライドはどうする」

そんな声が、心の中で何度も聞こえました。

けれど、最終的に私が選んだのは、
一から基礎を叩き直すことでした。

制度を正確に理解すること。
現場の実務を改めて身体に染み込ませること。
自分の知識や経験に、思い込みや甘さがないかを確認すること。

「遠回りでもいい。土台を固め直そう」
そう腹をくくりました。

その夜、机に向かいながら、過去の自分を思い出していました。

金融機関で新店舗の立ち上げに関わったとき。
会計事務所で、厳しい監査に追われていたとき。
経営企画部門で、会社の数字を背負っていたとき。

どの場面にも、「自分には無理かもしれない」と思った夜がありました。
それでも、そのたびに逃げずに向き合い、何とか乗り越えてきた。

「今回だけが特別じゃないな」

そう気づいたとき、少しだけ肩の力が抜けました。

今、私はある団体で働きながら、日々、基礎と向き合っています。
制度の細部、書類の意味、現場の空気。
若い頃には見えていなかったことが、今はよく見えます。

一度遠回りを経験したからこそ、
一度つまずいたからこそ、
分かることが確かにあります。

経営者の方が、夜一人で不安を抱える気持ち。
「この判断でよかったのか」と自問する時間。
誰にも弱音を吐けない孤独。

今なら、以前よりも深く理解できます。

その夜、私はノートにこう書きました。

「無理かもしれない。でも、投げ出したいわけじゃない」

不安があることと、向いていないことは違います。
怖さがあることと、失敗することは同じではありません。

不安になるのは、本気だからです。
どうでもよければ、人は悩みません。

翌朝、カーテンを開けると、空はいつも通りでした。
劇的な変化が起きたわけではありません。

けれど、昨日よりほんの少しだけ、心は落ち着いていました。

「無理かも」と思った夜があったから、
「それでも続けよう」と思えた自分がいた。

今振り返ると、あの夜は
挫折の始まりではなく、覚悟が現実に根を下ろした夜だったのだと思います。

もし今、この文章を読んでいるあなたが、
一人で不安な夜を過ごしているとしたら。

「自分には無理かもしれない」と感じているとしたら。

それは、あなたが真剣に人生と向き合っている証です。

立ち止まってもいい。
遠回りしてもいい。
一度、基礎に戻ってもいい。

不安な夜があっても、人は前に進めます。

私自身が、今もその途中を歩いています。

特定行政書士 中川正明

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