法令の優劣と在留資格「留学」の関係|行政書士が出入国管理法と告示の流れをわかりやすく解説
一般的に、法令には次のような優劣関係(法源の階層)があります。
- 憲法
- 条約
- 法律
- 政令
- 府省令
- 条例
- 規則・告示
在留資格の判断も、この階層構造を踏まえて組み立てられています。 ここでは、在留資格「留学」を例に、法律 → 省令 → 告示 へと細分化されていく仕組みを分かりやすく紹介します。
1. 在留資格「留学」はどの法律に根拠があるのか
留学の在留資格は、法律である「出入国管理及び難民認定法」(以下、入管法)に定められています。
■ 在留資格該当性(法律レベル)
入管法第7条第1項第2号前段により、 「別表第一の活動と一致しているか」がまず判断されます。
【法別表第一・4の表(留学)】(抜粋)
大学、高専、高校、中学校、小学校、専修学校、各種学校などで教育を受ける活動
これがいわゆる在留資格該当性であり、 「あなたが行おうとしている活動は留学に当たりますか?」 という最初のチェック部分にあたります。
2. 法律が省令へ「細則」を委ねる仕組み(基準省令)
次に重要なのが、7条1項2号後段にあるこちらの規定です。
「法務省令で定める基準に適合すること」
ここで登場するのが、出入国管理及び難民認定法第7条第一項第二号の基準を定める省令(通称:上陸基準省令)です。
この省令は、法律だけでは書ききれない具体的基準を定めています。 留学の場合、以下のような要件があります。
■ 基準省令で定める主な内容(要点)
- 入学先が大学・高専・専修学校等であること
- 夜間・通信のみの課程でないこと(一定例外を除く)
- 生活費を支弁できる資力があること
- 教育機関に外国人管理体制が整備されていること
- 研究生・聴講生は週10時間以上の聴講が必要
- 高校・中学・小学校は年齢要件を満たすこと
- 外国人への生活指導体制、寄宿舎などが確保されていること
これらが満たされていないと、後述する基準省令適合性の段階で不許可となってしまいます。
3. 省令の内容をさらに具体化する「告示」へ
さらにこの省令を受け、告示により個別の教育機関や要件が具体的に示されます。 これは、法律 → 省令 → 告示 と階層を下りながら、より細部を規定していく流れです。
■ 例:留学告示の役割
- 省令が定める「日本語教育機関」の詳細を規定
- 教育機関ごとの要件(出席管理体制など)を明記
- 特定分野の専門学校(アニメ・デザイン等)の指定
つまり、告示は「具体的にどの教育機関が要件を満たすのか」をリスト化する役割を担っています。
法律が大枠を定め、 省令が基準を定め、 告示が具体的な対象を定める。
この構造によって、在留審査は安定して運用できるようになっています。
4. なぜアニメ・デザイン系学校が告示に追加されたのか
留学告示の別表には、アニメ・デザイン・ファッションなど「クールジャパン」関連の学校が多数含まれています。 これは、2015年に発足したクールジャパン官民連携プラットフォームの政策が背景にあります。
日本の文化産業(アニメ・ファッション等)を国際的に発展させるため、 関連教育機関を留学在留資格の対象として積極的に位置づけた。
国家戦略が告示の内容に反映される典型例といえるでしょう。
5. 在留資格該当性と基準省令適合性の両方が必要
在留審査では、次の2つを必ず満たす必要があります。
- ① 在留資格該当性(法律) … 留学に該当する活動であるか?
- ② 基準省令適合性(省令〜告示) … 省令・告示が定める詳細要件を満たすか?
法律より下位の規範であっても、告示に適合しなければ上陸許可は得られません。 つまり、法令の上下関係に関わらず全てのレイヤーを満たさなければならないということです。
まとめ|法律 → 省令 → 告示で詳細化されるのが入管法の仕組み
在留資格審査は、法令の階層構造を理解すると非常に見通しがよくなります。
- 法律が大枠(どんな活動が該当するか)を決める
- 省令が基準(入学先や資力など)を定める
- 告示が具体的な対象(個々の教育機関等)を指定する
留学ビザ一つをとっても、法令が複層的に連動しながら運用されていることがよくわかります。 行政書士としては、これら全てを理解し、在留資格該当性と基準省令適合性の双方を満たす申請書類を作成することが重要です。
