年収の壁の議論について 

 「年収の壁」の議論が話題になって年を越しましたが、この年収と所得という語句をあらためて見ていくと、日本語の複雑さとニュアンスの違いを軽視し一括りにして議論してしまう傾向があるように感じます。つまり、一般社会では、収入≒所得、あるいは、年収≒年間所得 と解釈して会話をしてあたかもそれが不自然ではないように普通にやり取りしていることが多いと感じるのです。また、それはあるときには間違いとまでは言えないシチユエーションの場合もあり得ますからことをややこしくしているように思えてくるのです。例えば、一般的なサラリーマンや副業とサラリーマンの兼業の方、個人事業主の方、大規模企業など複数を営む経営者の方など・・・・に対し、以下の質問を投げかけたとします。

①収入はどの位ありますか?

②年収はどの位ありますか?

③所得はどの位ありますか?

④給与所得や不動産所得はどの位ありますか?

⑤給与所得控除後の所得はどの位ありますか?

⑥税込年収はどの位ありますか?

⑦手取りの収入はどの位ありますか?

これらの質問に対し受け止め方によって、また事業形態の違いなどにより様々異なった回答が返ってくることが考えられます。また、逆に、税込みですかそれとも手取りですか?とか、年商ですか、年収ですか、総所得ですか、給与所得ですか?各所得控除後の所得ですか?などといった逆質問をされることにもなるかもしれません。⑤給与所得控除後の所得云々というのは、103万の壁と密接な関係性を示す質問になりますが、一般社会においてこのような質問をしたり、されたりすることはまずありませんね。

以上のように、その語句の意味が一般社会で広く使われている語句としてのことばなのか、あるいは、税務上の所得 など狭い意味での語句の使われ方なのかによって、聞く側と答える側双方において意味が随分変わってくる、これらの語句の間で重複した解釈をする部分や明確に区別して解釈する部分、あるいはどちらも一緒くたにした解釈をしているという問題があります。収入、年収や年商、所得という語句ひとつとっても、その人その人によって変わってきます。同じ事業主であっても、ほとんどが100%が手数料収入という形態の事業もあれば、卸売業や小売業のように収入の内の良くても10%~20%程度が手元に残る程度という事業形態もありましょう。この場合、同時に同様の質問をしたとしても、同じ年収あるいは年商1,000万です。とそれぞれが答えたとしても随分ニュアンスが変わってきます。つまり、前者の個人の場合、所得は800万です。ということもあり得ますし、所得は0です。という場合もありましょう。後者の場合は、例えば所得はマイナスです。ということも考えられます。では、後者の場合、年収は1,000万ありますが、所得はマイナスです。という答え方を一般的にするかと言えばノーということになりますね。更に、前者の場合で法人の場合は役員報酬をとっているケースになると、給与の額で答えることになってきます。

①収入はどの位ありますか?  (総収入ですか。それとも、給料の収入のみですか。税込年収か、手取り年収か。)

②年収はどの位ありますか?  (税込年収ですか。純手取りの収入の総額ですか)

③所得はどの位ありますか?  (収入総額で答えればいいですか。控除前の所得ですか、控除後の所得ですか)

④給与所得や不動産所得はどの位ありますか? (  同  )

⑤給与所得控除後の所得はどの位ありますか? (この問いについては、そのまま答えられる方は壁問題の理解者といえそうです)

⑥税込年収はどの位ありますか? (サラリーマンの場合は、総収入で答えればよさそうですが、事業者の場合答え方が難しいです)      

⑦手取りの収入はどの位ありますか? (サラリーマンの場合は純手取りで答えればよさそうですが、事業者の場合答え方が難しいです)

このように、主に年収と所得について、一般的な使い方としての語句なのか、専門的な使い方としての語句なのかその違いを意識しつつ、以下の「年収の壁」のニュースを読んで理解するようにするといいと思います。因みに、この壁の問題は、サラリーマンの配偶者の処遇に関する問題点としてクローズアップされてきたものといえます。

【ニュースで話題の壁】

103万の壁   年間総支給103万未満だと原則 所得税がかからないといわれる壁 

130万の壁   年収130万を超えると社会保険上の扶養に入れないという壁

【以上の壁の他、関連してニュースで取り上げられている壁】

106万の壁   社会保険加入の目途 月給8.8万×12か月 ≒ 106万

150万の壁   配偶者特別控除が段階的に減り始める壁

178万の壁   最近になって新たに議論されている壁の基準で、最低賃金の上昇率を103万円に反映させて見直した  場合の新たな(103万に替わる)の壁

201万の壁   配偶者特別控除が201万を超えると ゼロになる壁

 

 (注)これらは、昨今の報道などで話題になっている壁の問題について、ニュースの受け取り方で最近感じていることを記述したに過ぎません。税務上の個別具体的な案件はご相談を含め税理士以外の者は法律により応じることはできません。税金の件でお困りの際は、専門家である税理士先生へご相談下さい。また、社会保険に関するご相談も同様で、専門家である社会保険労務士先生へご相談下さい。