入管庁が「育成就労制度の関係省令等」を公表 — 福井県の事業者が押さえるべきポイント

2025年12月3日、入管庁は公式ウェブサイト上で「育成就労制度の関係省令等について（概略図を含むPDF）」を掲載しました。これにより、これまで議論されてきた育成就労制度の全体構造や、省令で定められる要件、受け入れ機関の責任範囲、外国人労働者（育成就労者）の義務・権利などが、法的裏付けと共に初めて明確化された形となりました。

なぜこの公表が重要か — 制度実施の“本決定”を意味する

育成就労制度は、2024年6月に施行された改正法で創設された新しい在留資格制度で、従来の「技能実習制度」に代わるものとして設けられました。目的は単なる「技能移転」や「国際貢献」ではなく、「人材育成と人材確保」の両立にありました。

しかし、法律だけでは制度の実務的な運用や要件、受け入れ機関の責任、外国人の処遇などは定めきれません。そこで省令・施行規則など具体的な「運用ルール」を整備する必要がありました。このたび入管庁がそれを公式に公表したことで、

制度が単なる理念や構想ではなく、**実施に向けた“現実の制度”**であること
事業者・受け入れ機関に対する**法的義務・要件**が明確になったこと
地方企業、特に福井県のような地方においても**受け入れ可能性と条件**が見えたこと

── 以上の点で、公表は「制度開始に向けた本決定」「準備開始のゴーサイン」として非常に重要な意味を持ちます。

公表された関係省令等の主な内容 — 事業者・行政書士が注目すべき要件

入管庁が公開した資料では、育成就労制度の実施に必要な省令・施行規則の一覧が示されています。これらをもとに、特に事業者・受け入れ機関、そして行政書士が押さえるべきポイントを整理します。

テーマ	主な内容 / 要件	企業・受入れ機関に求められること
施行日	育成就労制度は令和9年4月1日に施行決定	制度導入に向けた準備は、それまでに完了する必要あり
在留資格の創設	新たに「育成就労」の在留資格を設け、従来の「技能実習」は廃止	既存の技能実習制度からの移行や、新規受け入れ手続きの見直し
育成就労産業分野の定義	「特定産業分野」のうち、就労を通じて技能修得が適切と認められる分野を省令で指定。これは後日告示予定 :	福井県内の企業が対象かどうか、分野の確認が必要
育成就労計画の認定義務	受け入れには「育成就労計画」の認定が必要。業務内容、技能・日本語目標、期間、研修内容、受入れ体制などを詳細に記載	計画書作成、記録保持、日本語教育や支援体制の構築が必須
日本語能力の要件	就労開始前に日本語能力「A1相当（例：日本語能力試験 N5 相当）」の取得または相当の講習が義務。就労中も「A2相当」への到達が求められる可能性	日本語教育機関や講師のアレンジ、日本語学習支援の整備が必要
転籍（転職）の条件付き許可	同一業務区分であれば本人意思による転籍を認める規定あり。ただし転籍先でも新たな育成就労計画の認定が必要	転籍手続きの理解、契約書・条件見直し支援が必要
監理団体 → 監理支援機関への見直し	従来の監理団体制度を廃止し、新たに「監理支援機関」を位置づけ。管理体制・外部監査人の設置などが要件に	監理支援機関の選定・許可支援、適正な支援体制の整備が必要
不法就労助長罪の厳罰化	不法就労を助長した者に対する罰則が強化（懲役・罰金の上限引き上げ）	契約・送出機関の管理厳格化、適正手続きの徹底が重要
施行規則・経過措置	関連する政令・省令・告示が一括で整備済。技能実習からの移行や過渡期の扱いも規定	既存の体制見直し、新制度対応のロードマップ作成が必要

以上のように、省令等の公表によって、これまで「将来の制度」として曖昧だった多くの実務要件が明文化されました。特に受け入れ企業側には、「育成就労計画の認定」「日本語教育」「支援体制」「監理支援機関の適正管理」「転籍時の手続き」「法令遵守」など、多岐にわたる対応が求められます。

福井県など地方における受け入れの意義と注意点

本制度の導入は、地方の中小企業や地域産業にとって大きなチャンスです。なぜなら：

地方では慢性的な人手不足が続いており、安定的な人材確保が喫緊の課題であること。
転籍の柔軟性や日本語要件の明確化により、定着・長期就労の可能性が高まり、単なる短期労働力ではない「人材基盤」の構築が期待できること。
監理支援機関や行政による適正管理のもと、外国人労働者の権利保護や労働環境の改善が制度的に担保されること。

特に福井県のような地方では、受け入れ企業だけでなく、住居の確保、日本語教育の手配、地域との共生のための地域社会との調整など、都市部にはない課題があります。しかし、制度の規定によって「支援義務」「管理義務」が明示されたことで、これらを逆に「計画的に整備することで受け入れ可能性を高める」ことができるようになりました。

主な注意点

育成就労産業分野の定義や受け入れ可能な業種が省令で定められるため、自社が対象かの確認が必要。
育成就労計画の認定取得が必須であり、計画の内容（技能・日本語・研修・支援体制など）に応じた準備が必要。
日本語教育の費用負担や時間確保、研修・教育体制を整備する必要がある。
適正な監理支援機関の選定および管理、契約の透明性確保が求められる。
転籍や派遣等の場合の手続き・条件確認、安全管理・法令遵守の徹底。
受け入れた外国人の生活支援・住居支援・相談窓口整備など、長期定着に向けた環境整備。

福井県の特定行政書士としての対応 — 今やるべきこと

私は福井県を拠点に活動する「特定行政書士／申請取次行政書士」として、この公表を受け、以下の対応を強くお勧めします。

省令・施行規則の内容の精読と把握
入管庁が公表した「関係省令等（概略図付きPDF）」および関連省令・施行規則を入手し、自社やクライアント企業が満たすべき要件を整理する。
福井県の企業向けに「育成就労導入ガイド」を作成
地方特有の事情（住居、交通、生活環境、日本語教育体制の有無など）を踏まえた現実的な受け入れロードマップを提示。
育成就労計画の作成・申請支援
企業が受け入れを希望する際の計画書作成、在留資格申請サポート、監理支援機関との調整、契約書類整備などをワンストップで支援。
日本語教育・生活支援ネットワークの構築
日本語教室、住居提供先、地域支援団体、行政との連携を進め、受け入れた外国人が安心して生活・就労できる体制づくり。
事業者向け情報発信と相談窓口の設定
ブログやセミナー、県内企業向け説明会などを通じて、育成就労制度のメリットと注意点を周知し、受け入れ意思のある企業を支援。

これらの準備を今から始めることで、制度施行（2027年4月）とともにスムーズな導入が可能になります。

まとめ — 「公表」はゴールではなくスタート。今こそ準備の時

入管庁による「育成就労制度の関係省令等の公表」は、制度の実現可能性を大きく高めた出来事です。これにより、制度はこれまでの議論段階から、実務としての具体性を持つものとなりました。地方企業、特に福井県のような地域においても、受け入れの選択肢が明確になり、将来的な人材確保の手段として現実的なものになりつつあります。

しかし、同時に受け入れには多くの責任と準備が求められます。法令遵守、適正な支援体制、日本語教育、生活支援、受け入れ環境整備など、多面的な対応が不可欠です。

だからこそ、地方で外国人人材を受け入れようとする企業と、制度導入を支援する行政書士の役割は、これまで以上に重要になります。今こそ、制度の詳細を確認し、受け入れ体制の準備を始めるタイミングです。

福井県の企業・事業者の皆さま、そして関係者の皆さま。育成就労制度は「将来の労働力」ではなく、「共に地域を支える人材基盤」です。適切な準備と配慮のもと、安心・公正・持続可能な受け入れを実現していきましょう。

行政書士中川まさあき事務所（福井県越前市）