【行政書士が解説】「入国」と「上陸」は何が違う?――出入国管理法に基づく正しい理解
日本に外国人が入る際には、「入国」と「上陸」という二つの異なる概念が存在します。
一般の方には少し分かりにくい部分ですが、行政手続きや在留管理に関係する実務ではとても重要な区別です。
この記事では、出入国管理及び難民認定法(入管法)の条文を踏まえながら、入国と上陸の正確な違いをわかりやすく整理して解説します。
行政書士として外国人支援に携わる方、企業の担当者の方、また国際交流に関心がある方にも参考となる内容です。
1. 入管法3条は何を定めているのか
まず、入管法3条1項には次のように規定されています。
出入国管理及び難民認定法 第3条(外国人の入国)
次のいずれかに該当する外国人は、本邦に入ってはならない。
1号 有効な旅券を所持しない者
2号 入国審査官から上陸許可等を受けないで本邦に上陸する目的を有する者
この条文が意味しているのは、裏を返せばこれらに該当しなければ入国できるということです。
しかし同時に、2号で「上陸許可等を受けないで上陸する目的を有する者」は入国できないと明記されています。つまり、
「上陸の申請」を行い、「上陸許可」を得なければ日本に入ることはできないということになります。
2. 「入国」と「上陸」は別の概念
ここで大切なのは、入国法制においては「入国」と「上陸」は同じではないという点です。
日常的な意味では「日本に来る」ことを入国と言いますが、法律上はもっと厳密に区別されています。
■ 入国とは?
入管法上の「入国」は、外国人が日本の「領域」に入った状態を指します。
例えば、
- 船に乗って公海から日本の「領海」に入ったとき
- 飛行機に乗って日本の「領空」に入ったとき
これらはすでに「入国」にあたっています。
つまり、物理的に日本の領域に入ること=入国というイメージです。
■ 上陸とは?
一方で「上陸」は、日本国内に実際に入って活動を行うための手続を経て、正式に許可されることを指します。
具体的には、
- 入国審査官による審査(旅券・査証・在留資格・在留期間などの確認)
- 審査に基づく「上陸許可」の付与
- パスポートへの上陸許可の押印またはデジタル記録
これらを経て初めて外国人は日本国内に「上陸」でき、在留活動を開始できます。
つまり、法的には「上陸許可」が外国人の日本滞在のスタートラインになるわけです。
3. なぜ「入国」と「上陸」を分けているのか
この二つの区別には、日本の出入国管理の根幹に関わる理由があります。
- 日本の領域には誰でも入ってきてしまう可能性がある(海・空は完全には制御できない)
- しかし、日本国内に入って活動してよいかを判断するのは国家の裁量である
- そのため、外国人に対しては「上陸審査」という関門を設けている
これは国際的にも一般的な制度であり、どの国にも「入境審査」「上陸審査」といった仕組みがあります。
4. 実務上のポイント:誤解しやすい点
行政書士として外国人支援に関わると、入国と上陸の違いを誤解しているケースに出会うことがあります。
よくある誤解を整理すると以下の通りです。
■ 「ビザ(査証)があれば入国できる」
ビザは「上陸審査を受けるための推薦状」に過ぎません。
最終的な判断は入国審査官が行います。
■ 「飛行機から降りれば日本に入ったことになる」
実際には、飛行機内で領空に入った時点で「入国」です。
しかし日本国内に入るには審査を経た「上陸許可」が必要です。
■ 「上陸拒否=不法入国」ではない
上陸拒否は合法的な行政処分です。
ただし、許可を得ずに日本国内に入れば不法上陸となります。
5. まとめ:入国と上陸の違いを理解する重要性
入国と上陸の違いは、一見すると細かな法的概念のようですが、外国人の在留管理に関する実務では欠かせない知識です。
入管法3条が示すように、
入国(領域への侵入)と
上陸(日本への入域許可)は明確に区別されています。
行政書士として外国人支援や企業の外国人雇用に関わる場合、この概念を正確に理解しておくことで、誤解を防ぎ、適切な手続を案内できる力が大きく高まります。
制度の正しい理解は、外国人本人にとっても安心をもたらし、支援する側の信頼にも直結します。
今後も制度の趣旨を踏まえた丁寧なサポートを心がけていきたいところです。
この記事が、入国・上陸制度についての理解を深める一助となれば幸いです。
