外国人にとっての防災防犯 ― 言葉・習慣・コミュニティ ―
外国人にとっての防災防犯 ― 言葉・習慣・コミュニティ ―
はじめに
日本で暮らす在留外国人の数は年々増加しており、地方都市においてもその存在は地域社会にとって欠かせないものとなっています。 一方で、災害や犯罪といった非常時において、在留外国人が直面する困難については、まだ十分に共有されているとは言えません。
防災や防犯は、国籍を問わずすべての人に関わる問題です。 しかし、在留外国人にとっては「言葉の壁」「生活習慣の違い」「地域とのつながりの薄さ」が重なり、日本人以上に大きな不安や孤立を生みやすい分野でもあります。 本稿では、在留外国人にとっての防災防犯を、「言葉」「習慣」「コミュニティ」という三つの視点から考えてみたいと思います。
1.言葉の壁が生む「情報難民」
災害時に最も重要なのは、正確な情報を、必要なタイミングで受け取れるかどうかです。 しかし、日本語に不慣れな在留外国人にとって、防災情報や避難情報は非常に理解しにくいものになりがちです。
行政から発信される情報は、日本語を前提としているものが多く、仮に多言語化されていたとしても、専門用語や抽象的な表現が多いため、十分に伝わらないことがあります。 「避難勧告」「警戒レベル」「自主避難」といった言葉は、日本人であっても理解が難しい場合があります。
その結果、在留外国人は情報を受け取れず、あるいは誤って理解してしまい、いわゆる「情報難民」となってしまう危険性があります。 情報が届かない、あるいは理解できないことは、命や安全に直結する深刻な問題です。
2.生活習慣・文化の違いが生む戸惑い
防災や防犯においては、言葉だけでなく、生活習慣や文化の違いも大きな影響を及ぼします。 例えば、日本の避難所生活には独特のルールや暗黙の了解が存在します。
靴を脱ぐ、整列する、私語を控える、自治会単位で行動するなど、日本人にとっては当たり前の行動も、他国の文化圏から来た人にとっては理解しづらい場合があります。 また、宗教上の理由から食事や服装に配慮が必要なケースもあります。
こうした違いが十分に理解されないまま非常時を迎えると、在留外国人は「迷惑をかけてしまうのではないか」「居場所がないのではないか」と感じ、避難行動そのものをためらってしまうこともあります。
3.コミュニティとのつながりの重要性
防災防犯において、最も重要なのは「人とのつながり」です。 普段から顔の見える関係があれば、災害時やトラブル発生時にも自然と助け合いが生まれます。
しかし、在留外国人の中には、地域コミュニティとの接点がほとんどないまま生活している方も少なくありません。 仕事と住居の往復だけで、自治会や地域行事に参加する機会がない場合、防災訓練や防犯情報に触れることも難しくなります。
一方で、地域側にとっても「どう関わればよいのか分からない」という戸惑いが存在します。 その結果、双方が距離を保ったまま、非常時を迎えてしまうことになるのです。
4.平時からの備えが安心につながる
防災防犯は、非常時だけで完結するものではありません。 むしろ、平時からの小さな積み重ねが、非常時の安心につながります。
多言語による分かりやすい情報提供、やさしい日本語の活用、地域イベントへの参加の呼びかけ、顔の見える関係づくり。 こうした取り組みは、特別なことではなく、日常の延長線上で行うことができます。
行政、地域、企業、専門家がそれぞれの立場で役割を果たし、在留外国人を「支援される側」としてではなく、「地域の一員」として迎え入れることが重要です。
おわりに
在留外国人にとっての防災防犯は、決して特別な問題ではありません。 それは、日本社会全体の防災防犯力を高めることにも直結する課題です。
言葉の壁を越え、習慣の違いを理解し、コミュニティのつながりを育てること。 その積み重ねが、誰もが安心して暮らせる地域づくりにつながるのではないでしょうか。
一人ひとりが「自分には何ができるか」を考え、行動することが、未来の安心につながると信じています。
行政書士中川まさあき事務所(福井県越前市)
