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民事訴訟における「二段の推定」とは?|私文書・押印・署名の関係を行政書士が解説

民事訴訟における「二段の推定」とは?|私文書・押印・署名の関係を行政書士が解説

民事訴訟における「二段の推定」とは?|私文書・押印・署名の関係を行政書士がわかりやすく解説

「二段の推定」は、民事訴訟法の中で文書の成立を判断する際に使われる法理です。 専門的な法律概念ではありますが、実は私たちが日常的に無意識で行っている考え方でもあります。

今回は、特定行政書士試験でも重要となる「二段の推定」について、できるだけ平易な言葉で解説します。

1. 「二段の推定」とは何か

「二段の推定」とは、私文書に押されている印影が本人の印章であると認められる場合、その文書は真正に成立したものと推定されるという考え方です。

二段とは、以下の二つの推定を積み重ねることを意味します。

  1. 押されている印影は本人の意思に基づくものと推定
  2. その結果、その文書は真正に成立したものと推定

この積み重ねにより、私文書の「成立の真正」が認定しやすくなるのです。

2. 一段目の推定(判例:最判昭39.5.12)

【最判 昭和39年5月12日】(要旨)

文書の名義人の印影が本人の印章により押されたものであると認められるとき、 反証がない限り、その押印は本人の意思に基づくと事実上推定され、 その結果、文書は真正に成立したものと推定すべきである。

つまり、印影=本人の印章 と判断できると、 「本人が押したものだろう」と合理的に推定されるわけです。

これが「二段の推定」の 一段目 となります。

3. 二段目の推定(民事訴訟法 228条4項)

【民事訴訟法 228条4項】

私文書は、本人または代理人の署名または押印があるときは、 真正に成立したものと推定する。

押印や署名があることで、文書は「当事者が作成したと推定」される。 これが「二段の推定」の 二段目 です。

4. 民事訴訟における文書の証拠力

文書を証拠として使う場合、次の二つの問題があります。

■ (1) 形式的証拠力(成立の真正)

  • 文書が本当に作成者本人の意思で作られたものか?
  • → 民訴法228条4項がここを推定する規定

■ (2) 実質的証拠力

  • 文書に書かれた内容自体がどれほど信用できるか?
  • → これは別の評価ポイント

今回の「二段の推定」が関わるのは、形式的証拠力(成立の真正)の部分です。

5. 電子契約・電子署名と「二段の推定」

近年は電子契約が広く普及し、紙の契約書に押印する機会が減っています。 しかし、電子署名法第3条により、

電子署名は押印と同等の効力

が認められています。

そのため、民訴法228条4項が「押印」に言及しているからといって、 押印が絶対に必要という趣旨ではありません。

内閣府の資料でも、紙の押印文化が根強い理由は民訴法ではなく「社会的慣習」にあると説明されています。

6. まとめ|「二段の推定」は文書社会を円滑にするための合理的な仕組み

「二段の推定」は、文書の真偽を争う場面で登場する法理ですが、 日常の取引でも私たちが無意識に使っている考え方です。

  • 印影が本人の印章なら → 本人の意思で押されたと推定
  • 署名・押印があれば → 文書は真正と推定

もちろん推定は覆ることもありますが、 この仕組みによって社会の取引はスムーズに進んでいます。

今後、電子契約・電子署名の普及により、 「押印と二段の推定」の関係はさらに変化していくでしょう。 この点についても、別の機会により深く取り上げたいと思います。

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