二段の推定

特定行政書士の勉強に関して、「二段の推定」という項目がありました。
今回は、これについて記述したいと思います。

「二段の推定」とは、私文書と署名、押印の関係性をあらわす一般的な考え方と捉えればわかりやすいです。というより、私達は、無意識にこの推定を実践しているということもいえるのではないでしょうか。

では、この「二段の推定」の考え方は、民事訴訟法の分野で、法律用語のためあまり馴染のない語句ですが、どうして、一般的に広く無意識に定着しているかという点について、個人的には、私文書などによる世の中の流れを合理的に、また、円滑にすすめていくための慣習というふうに捉えています。
もちろん、信ぴょう性などが争点となった場合には、弁護士先生に相談することになりますが、平常時には、原則としてこの考え方を援用して運用していると思います。一応、確からしいということで物事をすすめている。というふうに置き換えることもできます。

簡単にいえば、私文書(契約書など)が、間違いなく当事者間で締結し作成された真正なものであるかどうかを判断するにあたっては、判例や民事訴訟法228条4項の要件を基準として、一応確からしいということで、真正なものと推定されるという運用のこと。ただし、推定はされても、覆ることもあり得る点には留意が必要ですが。
この法則は、下記の2点を根拠としているとされ、これが「二段の推定」と呼ばれるものになります。

「二段の推定」

➀一段目の推定

私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、
反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とするから、民訴法第三二六条により、該文書が真正に成立したものと推定すべきである。
最判昭39.5.12

という判例から、私文書に本人の印章が押してあれば、反証がないかぎり、真正に成立したものと推定される
というのが、一段目の推定とされます。

②二段目の推定

民事訴訟法228条4項

私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

により、二段目の推定となり、この二つをもって「二段の推定」と呼ぶとされています。

民亊訴訟法228条は以下の通り
(文書の成立)
第228条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
3 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5 第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。

以上、「二段の推定」について、私文書と署名、押印の関係について記載してきましたが、この論点とは別に、電子契約、電子署名などと押印省略の論点を考えるにあたり、さらに深掘りしていく必要があることに気が付きます。機会があれば、この点についても記述したいと思います。
以下を参考にして頂ければと思います。

民事裁判で文書を証拠とする場合には、次の2点が問題
・ 形式的証拠力(成立の真正) ・・・民訴法228-4の問題
=その文書が作成者とされている者の意思に基づいて作成されたこと
・ 実質的証拠力 ・・・別の問題
=その文書に記載された内容がどの程度確からしいかなど
民訴法228-4は、形式的証拠力に関し、反証可能な、事実上の推定を規定
⇒押印の要否については規定していない
署名と電子署名(電子署名法第3条)にも、押印と同じ効果がある
⇒民訴法228-4は、根強い押印の慣行の原因とはいえない

内閣府のホームページからの引用

この他、令和2年6月19日付 「押印についてのQ&A」において、契約書と押印の関係などをまとめているようです。

行政書士中川まさあき事務所