公正証書の効力と公正証書遺言の意義を行政書士が解説
「公正証書」とは、公証人という公務員が、その権限に基づき作成する公文書のことをいいます。 公証人は、法律に基づき私人(個人や法人)の依頼を受けて文書を作成し、その内容が真正であることを公的に証明します。
本記事では、公正証書の効力や種類、特に公正証書遺言の特徴とメリットについて、行政書士の立場からわかりやすく解説します。
1. 公正証書の効力とは?
公正証書には、一般の私文書にはない強い証拠力と執行力が認められています。主な効力は次のとおりです。
- ① 成立の真正が強く推定される
公証人という公務員が作成した公文書であるため、「文書が偽造されたものではない」という真正推定力を持ちます。 - ② 完全な証拠力を有する
公正証書の記載内容は反証がない限り全面的に信用され、裁判においても強力な証拠となります。 - ③ 執行証書としての効力
「債務者が支払を怠った場合、直ちに強制執行に服する」という旨の陳述が記載された公正証書は、裁判を経ずに強制執行が可能です。 
このように、公正証書は「証拠力」「信用性」「実行力」の三拍子がそろった法的文書です。 特に金銭消費貸借契約(いわゆる金銭貸付契約)では、未払いが生じた際に裁判を経ずに回収できる「執行証書」として機能します。
2. 公正証書の種類と分類
公正証書は、その内容によって大きく次の2つに分類されます。
(1)法律行為に関する公正証書
- 契約に関するもの:不動産売買契約書・賃貸借契約書・金銭消費貸借契約書など
 - 単独行為に関するもの:公正証書遺言、保証意思宣明公正証書など
 
(2)私権に関する事実についての公正証書(事実実験公正証書)
公証人が自らの五感によって確認・認識した事実を記録するものです。 例えば、
- 尊厳死に関する意思表示を文書化する場合
 - 被相続人名義の貸金庫の開披・内容確認を記録する場合
 
このような場合に作成されるのが「事実実験公正証書」であり、客観的な事実を後に証明する手段として非常に有効です。
3. 公正証書遺言とは?
公正証書遺言は、「法律行為に関する公正証書」のうち、単独行為として作成されるものです。 遺言者本人が公証人および証人2名の前で遺言内容を口頭で述べ、それを公証人が正確に文書化します。
作成の流れは次のようになります。
遺言者が公証人に遺言内容を口頭で伝える
公証人が内容を確認し、遺言書を作成
公証人が遺言者・証人2名に読み聞かせまたは閲覧させる
全員が内容を確認のうえ署名押印し、公正証書として完成
4. 公正証書遺言の主なメリット
- 安全かつ確実:法律専門職である公証人が関与し、形式不備のリスクがない
 - 自筆不要:遺言者が自書できない場合でも作成可能
 - 出張対応可能:病院・施設などへの出張作成にも対応
 - 家庭裁判所の検認が不要:自筆証書遺言に必要な検認手続を省略できる
 - 原本が安全に保管される:公証役場に原本が保管され、紛失・改ざんリスクがない
 - 電磁的記録によるバックアップ:全国の公証役場で内容確認が可能
 
これらの特徴から、公正証書遺言は最も信頼性が高く実効性のある遺言方式といわれています。
5. 公証人手数料の目安
公証人手数料は「公証人手数料令」という政令によって法定されています。 遺言の目的となる財産の価額に応じて変動します。
- 1,000万円以下 … 11,000円
 - 3,000万円を超え5,000万円以下 … 29,000円
 - 1億円を超え3億円以下 … 43,000円
 
その他、証人立会料や出張日当・交通費などが別途必要となる場合があります。
6. 公正証書遺言を作成する意義
自筆証書遺言に比べて手間や費用はかかりますが、安全性・確実性・実行性のいずれにおいても優れています。 特に次のような方には、公正証書遺言の作成を強くお勧めします。
- 相続人が複数いて、家族関係が複雑な場合
 - 財産が多岐にわたり、金額も大きい場合
 - 体力や筆記能力に不安がある場合
 - 遺言を確実に執行したい場合
 - 日本国籍に帰化された方や永住者など、国際的な法的関係を伴う場合
 
専門家の立会いのもとで作成することで、後々のトラブルを防ぎ、遺言者の意思を正確に実現することができます。
公正証書遺言の作成には公証人・証人2名の立会いが必要です。
証人を依頼できない場合は、行政書士などが中立的に対応できます。
※本記事は民法・公証人法および公証人手数料令に基づく一般的な解説です。
実際の作成にあたっては、行政書士・公証人・弁護士等の専門家にご相談ください。
行政書士中川まさあき事務所(福井県越前市)
