【福井の特定行政書士が解説】マクリーン事件の判例から見る今後の在留管理

はじめに:なぜ今、マクリーン事件を学ぶのか

外国人の在留管理や人権を考える上で、日本の法制度を理解するうえで欠かせない判例が「マクリーン事件」(1978年・最高裁)です。この判例は、外国人の在留資格に関して国家に広範な裁量を認めるという立場を示し、以降40年以上にわたり、日本の入管行政の基盤となってきました。(マクリーン事件の判例は、行政書士試験でも頻繁に取り上げられる判例のひとつです。)

しかし、近年の国際人権法の潮流や国内裁判例の変化、そして社会の国際化を背景に、「果たしてこのままで良いのか」という再評価の声が高まっています。議論の中心は「外国人の人権を日本人並みに認めるべき」ということではなく、「行政裁量の基準を明確にし、平等に適用すべき」という、制度運用の透明性・公平性を求める声です。

マクリーン事件の概要と歴史的意義

判決の経緯
マクリーン氏は1970年代に来日し、在留資格の更新を申請しましたが不許可とされ、裁判に発展しました。最高裁は「憲法22条の居住・移転の自由は外国人の在留には及ばない」と判断し、国家に広範な裁量を認めました。

判決の意義
この判決は二重の意義を持ちます。一つは「外国人に在留の自由を憲法上認めない」という確認、もう一つは「在留している外国人には人権が保障される」という点です。つまり、在留資格の付与は国家の判断に委ねられるが、在留外国人の人権は尊重される、という整理でした。

判例の限界と再評価の声

国際人権法の潮流
国際社会では「外国人であることを理由に人権を不当に制限してはならない」という考え方が強まっています。日本も国際的基準に整合した制度運用が求められる時代になりました。

国内裁判例の変化
2021年の東京高裁判決では、国家裁量を前提としつつも「合理性と公平性がなければならない」と判断し、個別事情を丁寧に考慮する姿勢が見られました。

行政裁量の透明化と平等適用
同じ申請でも時期や場所によって扱いが変わる現状は、申請者に不安を与えます。重要なのは「裁量の広さ」そのものではなく、「基準が明確で公平に適用されること」です。

行政実務における課題

厳格運用の現状
技能実習生や留学生の資格変更では、わずかな書類不備で不許可となることも珍しくなく、申請者は「なぜ自分だけが不許可なのか」と不安を抱きます。

運用の不透明さ
地域や時期によって結果が異なるケースがあり、全国一律の明確な基準づくりが求められています。

相談現場で感じること
特定行政書士として相談を受ける中で、「自分のケースがどう判断されるか分からない」という声は非常に多いです。透明性が高まれば、申請者も準備や納得がしやすくなります。

行政現場の苦労と制度的課題

職員の負担と現場の苦労
外国人の入国が急増する中、入管庁や出入国在留管理局の職員は膨大な業務を抱えています。人員不足の中で厳格な判断を迫られる現場には、大きな負担がのしかかっています。

現場に矛先を向けるのは間違い
制度の不備や不透明さを現場職員の責任とするのは誤解です。現場は限られた体制で最善を尽くしており、求められるのは職員批判ではなく制度設計の見直しと人員体制の強化です。

公務員不足が招くリスク
公務員志望者の減少傾向が続けば、制度運営そのものが揺らぎかねません。入管業務は人の人生に関わる重い責任を伴う仕事であり、人材不足は国の健全な存続を脅かす可能性すらあります。

今後の在留管理の方向性

  • 人権と制度運用のバランス:生命・安全を最優先にしつつ、外国人の人権を尊重する。
  • 行政と専門家の連携:不必要な不許可や誤解を減らすために協力体制を強化する。
  • 基準の透明化・明確化:審査基準や判断プロセスをできるだけ公開する。
  • 電子化・効率化:オンライン化で全国の運用統一を進める。

まとめ:信頼される制度のために

マクリーン事件は、日本の外国人政策の出発点でした。しかし現代においては「人としての尊厳を守る視点」と「行政裁量を透明で公平にする視点」が不可欠です。そして、現場職員の努力を理解しつつ、制度全体を改善していくことが求められています。

外国人も日本人も、人権の重さは同じです。制度が信頼されるものであれば、国際社会の中で日本も信頼を得ることができます。現場の声を踏まえた改革こそ、持続可能で健全な外国人受入れ制度につながると私は考えています。

また、経営管理にかかる、人・物・お金の要件基準のうち、お金に関する要件基準が500万から3000万に引き上げることが検討されていますが、様々な社会問題になっている現状を考えるとやむを得ないことかもしれません。しかし、500万の要件基準で許可を得ている方の中にも堅実で良識ある方々も大勢いらっしゃることは忘れてはならない点だと思います。

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行政書士中川まさあき事務所(福井県越前市)