合同会社は、米国で急速に普及してきたLLC(limited liability company)を例に、平成17年の会社法の制定によって新たに導入された会社形態とされています。但し、米国のLLCの場合はパススルー税制【法人税を課税せず、LLCの社員(出資者)自身の所得と見做して社員のみに課税する方式】を採用していますが、日本における合同会社は、株式会社と同様に法人税等が課せられる方式を採用している点で違いがあります。また、合同会社という会社形態をとる場合の多くは、会社の運営や管理は社員(出資者・構成員)が自己責任で決めたいと考え、少人数による非公開型の企業とするケースや、大企業の子会社、投資ファンドの組織形態として活用されているのが実情のようです。
では、実際に合同会社を設立して経営を開始された方の感覚として、他の経営者のように株式会社の場合と比較して何か不都合な点はありましたか?という質問をしてみると、特にないという意見も意外と多いようですが実際にそうでしょうか。株式会社の代表者であるなら、「株式会社○○建設 代表取締役○○太郎」という名刺を使用することになりますが、合同会社の代表者の場合は、「合同会社○○建設 代表社員○○次郎」という名刺を使用することになります。
従って、会社法制定された平成17年以前の会社形態に慣れ親しんできた年代の方々にとっては、「合同会社○○建設 代表社員○○次郎」という名刺を差し出された場合、馴染みがないことから信頼度がどうしても低く見られることが従来までは多かったのも事実のようです。時代が進むにしたがって、経営者の年代も若返りが進んでくることになることから、そのような抵抗感も徐々に少なくなってきて来ているようです。現に、新規に設立される法人の約3割弱が合同会社を設立するようになってきており、合同会社としての立ち位置も徐々に変化していくことは間違いありません。
しかし、以前のブログで記述しましたが、立ち上げた会社を大きく発展させていきたい場合や、広く株式公開などを目指すような場合には合同会社では事足りないことになり、ディスクロジャーの観点からみても株式会社ほどの開示義務がないことから、金融機関への与信力も低く見積もらざるを得ないのも現実ではないかと思います。
以上を念頭にして、経営と所有の関係でいうと限りなく等しい関係とも解釈できる「1人株主1人取締役の株式会社」と、「1人社員 1人代表社員の合同会社」ですが、ここでは、あえて説明のし易さを考慮して「2人株主1人取締役の株式会社」と、「2人社員 1人代表社員の合同会社」の例を比較をして論点をみていきたいと思います。
会社形態 | 株式会社 | 合同会社 |
出資者 | AとB | AとB |
出資者の関係性 | 夫婦間、親子間、親族間が多い | 夫婦間、親子間、親族間、友人同士が多い |
出資者の呼称 | 株主A(200株) 株主B(100株) | 社員A 社員B |
出資金額 | 株主A 200万円 株主B 100万円 | 社員A 200万円 社員B 100万円 |
資本金 | 300万円 | 300万円 |
責任 | 有限責任 | 有限責任 |
代表者 | 取締役 A (代表取締役 A) | 代表社員 A (定款に別段の定めがない限り、各社員は全員代表権と業務執行権がある。但し、定款で業務を執行する者の中から代表社員を定めることができる。) |
代表権、業務執行権 | 取締役 A | 原則 代表社員(業務執行社員) A (定款に定めがない限り、代表社員 A 業務執行社員 Bどちらにもある。) 業務執行の決定は、定款に別段の定めがない限り、社員の過半数を以って決する。 |
商業登記簿謄本に記載される役員 | 取締役 A | 代表社員 A 業務執行社員 B (※業務を執行しない社員は記載されない。) |
議決権 | 持ち株に応じた議決権 | 出資の額に関わらず自由に設定できる |
経営上の業務執行 | 株主総会の議決又は取締役会の議決 ※小規模会社の場合、取締役会が成立しないケースを見越して株主総会決議とする場合が多い。(原則は株主総会の委任をうけて取締役会が行う)この場合は、役員1名会社のため取締役会なしが前提 | 全員一致、過半数など原則自由に設定可 |
定款 | 要 | 要 |
定款認証 | 要 | 不要 |
定款記載事項 | 【絶対的記載事項】 商号 目的 本店所在地 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額 発起人の氏名又は名称及び住所 発行可能株式総数 【相対的記載事項】 株式の譲渡制限に関する定め 基準日 取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、委員会、代表取締役の設置 取締役・監査役等の任期の伸長 取締役会の招集通知期間の短縮 取締役会の決議の省略 役員等の責任の軽減に関する定め 公告の方法 変態的記載事項 取得請求権付株式に関する定め 取得条項付株式に関する定め 株券発行の定め 取締役会 剰余金配当の定め 【任意的記載事項】 事業年度 株主総会に関する定め 役員の員数 | 【絶対的記載事項】 商号 目的 本店所在地 社員(出資者)の氏名および住所 社員(出資者)を有限責任社員とする旨 社員の出資目的およびその価額(評価の標準) 【相対的記載事項】 持分の譲渡の要件 業務を執行する社員(業務執行社員)の定め 代表社員の定め 存続期間または解散の事由 社員の加入および退社の事由 【任意的記載事項】 業務執行社員の人数 業務執行社員の報酬 事業年度など |
機関設計 | 株主総会、取締役 (このケース以外では、取締役会、監査役、監査役会、会計参与、指名委員会等、監査等委員会、会計監査人) | 特になし |
税制 | 法人税 | 法人税 |
設立時 登録免許税 | 最低15万円 | 最低6万円 |
決算公告等 | 義務有 | 義務なし |
配当 | (例) 1株当たり 300円 A 60,000円 B 30,000円 | (例) AとBの分配割合を自由に設定できる。 A 1% 20,000円 B 10% 100,000円 ※出資が少なくても、配当が多いという設定も自由にできる。 ※このような自由設定を可能にするには、社員間の絶対的信頼関係なくして成り立たない。 |
許認可との関係 | 役員の要件、設備の要件、資本金、財務内容(人・物・金) | 役員の要件、設備の要件、資本金、財務内容(人・物・金) |
銀行借入時の保証 | 原則、代表取締役個人保証を求められる場合が多い。 | 代表社員又は全社員の個人保証を求められる場合が多い。 |
代表者が死去した場合どうなる | 原則、経営と所有が分離していることもあり、代表者であり株主でもあるAの相続人が新たな株主になることにより、経営権を継承することになるため、新たな代表者を送り込み経営を再開することなどが可能。(但し、相続人がいない場合は問題) | 定款で持分を相続人が継承できる旨の規定があれば相続人が承継できるが、継承できるからといって、他の社員とのバランスを受け入れられるかという問題が一番大きい。特有の経営形態であることから、分配割合も含め相互の理解が必要となる。 社員が代表社員一人しかいない場合で、定款に定めがない場合は、その会社は原則機能しなくなる。 |
事業継承と、従業員の保護の観点 | 株式出資割合や役員構成が事業継承とその後の従業員保護にも影響することから、企業の将来について普段から話し合いが必要。 | 親子間・夫婦間・親族間ならまだしも、友人同士の設立の場合は、よほどの信頼関係のある者同士である場合は別として、それでも社員が替わるケースがある場合は、最初から設立するのと同じくらいの手間と忍耐力が必要になる場合も想定されることから、その旨を事前によく検討しておく必要がある。 |
インボイス制度導入前においては、消費税免税事業者としての適用を受けるべく、比較的設立が容易な合同会社の設立が増加した経緯が過去にはあったようですが、前向きな事由でもないため、今後はどのような要因で設立が増えていくのかについて、注目していきたいと思います。個人的な解釈になりますが、結論としては、合同会社は自由がきく会社である半面、どちらかというと保守的な側面を持ち合わせている会社と感じます。