パレートの法則と経営におけるバランス感覚
パレートの法則とは、イタリアの経済学者ビルフレッド・パレートが発見した「個人所得の分布に一定の法則性がある」という考え方で、一般には「80:20の法則」として知られています。経営者であれば必ず理解しておきたい原則のひとつで、簡単に言えば、今起きている結果の80%は、たった20%の原因によって生じているというものです。
たとえば、以下のような例がよく挙げられます。
- 売上の8割は、売れ筋商品や重点サービスの2割から生まれる
- 優秀な営業社員2割が、全体の売上の8割に影響している
- 世界の富の8割を、全体の2割の富裕層が所有している
この考え方に近い概念として、在庫管理で用いられる「ABC分析」がありますが、これもパレートの法則を基盤にしたものだといわれています。
自然界にも見られる「偏りの比率」
自然界においても、黄金比として似た傾向が見られます。海と陸の比率が78:22、空気中に含まれる窒素の割合も78:22といった具合です。完全に一致するわけではありませんが、さまざまな事象が“偏った比率”で安定しやすいことを示しているのは興味深い点です。
つまり、経営においても、この「偏り」がどの部分で起きているのかを把握することは極めて重要だと言えるでしょう。
時間が経っても「80:20」に落ち着く性質
パレートの比率は、一時的に変動しても、時間の経過とともに再び似たような割合へ戻ると言われています。これは経営判断を行う上でひとつの参考軸となります。
一方で、ネットビジネスの戦略として知られる「ロングテール」のように、売れ行きの少ない商品でも種類を広げることで売上を積み上げる方法も存在します。そのため、どちらか一方を絶対視するのではなく、状況に応じて柔軟に捉えることが経営者には求められます。
数字を知るだけでは不十分——変化を読み続ける重要性
最も注意すべきは、80:20という数字を知識として理解しているだけでは不十分だという点です。数字に甘んじてしまえば、硬直化し、やがて衰退してしまいます。
時代も人の好みも変わり、組織の中身も常に変化していく中で、当然ながら結果の生まれ方も変わっていきます。経営者は常に現場を観察し、20%の“核となる部分”が変化していないかに敏感でなければなりません。
経営者は結果がすべて自分に返ってくる
サラリーマンの場合、大企業の中では「一人くらい怠けても給与が極端に減るわけではない」「誰かが代わりにカバーしてくれるだろう」という甘い考えが通ってしまうこともあるでしょう。しかし、経営者はそうはいきません。
何が起きても、結果はすべて自分に返ってきます。だからこそ、変化に対応し続ける姿勢が求められます。
■おわりに
パレートの法則は単なる理論ではなく、経営の現場でも大きな示唆を与えてくれるものです。しかし大切なのは、その数字を絶対視することではなく、常に変わり続ける現実に目を向けながら、柔軟にバランスを取っていくことです。経営者として、今どこに偏りが生まれているのかを見極め続ける力こそが、長く生き残るための鍵になるのだと思います。
