新たに建設業許可を受ける場合や、許可の更新を受ける場合には、「財産的基礎等」の要件をクリアする必要があります。令和5年1月(福井県土木部土木管理課)の建設業許可申請の手引きによれば以下のように記載されています。
5.財産的基礎等 請負契約を履行するに足りる財産的基礎または金銭的信用を有しないことが明らかな者でないことが必要です。
項 目 | 一般建設業 (法第7条第4号) | 特定建設業 (法第15条第3号) |
請負契約を履行するに足りる財産的基礎等を有すること | 次のいずれかに該当すること。 イ 自己資本の額が500万円以上で あること。 ロ 500万円以上の資金を調達する能 力を有すると認められる者であるこ と。(取引金融機関の融資証明、 預金残高証明書等により確認) ハ 許可申請直前の過去5年間許可を受 けて継続して建設業を営業した実績 を有すること。(更新の場合のみ) | 次のすべてに該当すること。 イ 欠損の額が資本金の額の20%を超 えていないこと。 ロ 流動比率が75%以上であること。 ハ 資本金の額が2000万円以上であ り、かつ自己資本の額が4000万 円以上であること。 |
以上を念頭として、建設業許可を持っている事業者様が更新の時期を間近にひかえた場合、特に注意が必要な点のひとつとして、直近の決算変更届出を確実に提出しているかということがあげられます。
つまり、一般建設業の場合において、更新の際の要件のひとつとされるこの財産的基礎に係る要件は、(イ)自己資本の額が500万円以上であること。この要件を使う場合例えば、資本金は500万円であるのに対し、1期目から4期目の繰越欠損金が400万円であった場合等の自己資本(純資産)は、500万円に満たないということになってしまい、この場合(イ)では要件を満たさないということになります。そこで、(ロ)500万円以上の資金を調達する能力を有すると認められる者であること。(取引金融機関の融資証明、預金残高証明書等により確認)を検討することになり、その結果、借入枠がもうすでに一杯で、預金も500万円未満しか保有していない場合にはこの要件(ロ)も使えないということになります。そこで、最後の手段 (ハ)許可申請直前の過去5年間許可を受けて継続して建設業を営業した実績を有すること。(更新の場合のみ)を使えるかの検討をすることになるのですが、この際直近の提出すべき決算変更届を失念していた場合にはこの(ハ)も確認できないということになってしまいますので、更新前には必ず決算変更届(原則決算後4ヶ月以内)の提出を確実にしているかどうか確認することが重要です。直近の決算変更届が提出してあり、かつ、現に建設業を営んでいれば、たとえ決算が赤字で自己資本額が500万円未満で、500万円以上の資金調達能力を証明できない場合でも、原則として、許可申請直前の過去5年間許可を受けて継続して建設業を営業した実績を有すること。の要件を満たすことになり、更新手続きの要件のうち財産的基礎の部分は一応クリアできることになります。但し、欠損金の額が相当過大な場合など、「請負契約を履行するに足りる財産的基礎等を有すること」に該当するとは認められない(請負契約を履行するに足りる財産的基礎または金銭的信用を有しないことが明らかな者でない、とは認定しがたい。)と判断されることも考えられ、直近の決算内容を精査し改善の見込みや根拠資料を示す必要が生じることもあり得ます。このようなリスクを考えた場合、経営計画を立て直すなどして金融機関とよく事前に協議の上、500万円以上の融資証明の発行等の確約をもらう努力をすることも念頭にした方がいいかもしれません。また、それ以上に何よりも財務体質の改善を図ることが自社を救う唯一の道といえるかもしれません。
建設業界で生き残るためには、財務体質の強化という課題は避けては通れないものといえます。発注者を守るという観点から法令上もそれを強く求めるというのは自然なことであり、事業者の方々にとっては日増しに様々なハードルが前に置かれることになるようで生き残るのも至難の業と感じてしまうこともあります。
更新をまもなく迎えることになる事業者様にとっては、予め対策をとっておくことや確認を怠らないことを何よりおすすめしたいと思います。そして、無事故で安全第一の日々を送られるよう切に願います。
建設業法第11条第2項
許可に係る建設業者は、毎事業年度終了の時における第六条第一項第一号及び第二号に掲げる書類その他国土交通省令で定める書類を、毎事業年度経過後四月以内に、国土交通大臣又は都道府県知事に提出しなければならない。
(毎事業年度経過後に届出を必要とする書類)
第十条法第十一条第二項の国土交通省令で定める書類は、次に掲げるものとする。
一株式会社以外の法人である場合においては別記様式第十五号から第十七号の二までによる貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び注記表、小会社である場合においてはこれらの書類及び事業報告書、株式会社(小会社を除く。)である場合においては別記様式第十五号から第十七号の三までによる貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表及び附属明細表並びに事業報告書
二個人である場合においては、別記様式第十八号及び第十九号による貸借対照表及び損益計算書
三国土交通大臣の許可を受けている者については、法人にあつては法人税、個人にあつては所得税の納付すべき額及び納付済額を証する書面
四都道府県知事の許可を受けている者については、事業税の納付すべき額及び納付済額を証する書面
2法第十一条第三項の国土交通省令で定める書類は、第四条第一項第一号及び第六号に掲げる書面とする。
建設業法施行規則より抜粋
尚、各都道府県によっては、要綱や提出書類等で若干の違いがある場合もあるようです。申請にあたっては、予め担当部局や専門家に確認してすすめるのが賢明です。