「第三者」を考える場合の留意点

善意と悪意

実社会においては、いい人は「善人」、悪い人は「悪人」という区分をすることがあります。また、何か悪いことを企む行為を、「悪意ある行為」ということもあります。
一方、法律上は、事情を知っている人を「悪意の第三者」といい、事情を知らない人を善意の第三者」と区分することがあります。ここで、「悪意の第三者」は、必ずしも悪人ではない点を理解しておく必要があります。「悪意の第三者」を「悪人」として捉えて試験問題を解いていくと、不正解になるように仕組まれる問題も存在します。また、単に「第三者」という場合は、一般社会においては【第三者=部外者=善人】を前提としている慣習がありますが、法律上の「第三者」は、悪意の場合も善意の場合も含むという場合もありますので、こちらも区別して考える必要があります。

重過失・軽過失・善意無過失

同じ、「善意の第三者」でも、留意しなければならない点は、注意すれば知ることができた場合の軽過失「善意の第三者」や、重大な過失により知らなかった場合の重過失「善意の第三者」なども区別が必要だということです。加えて、「悪意の第三者」の場合、「背信的悪意者」については、他と区別する必要があります。行政書士受験時代には、これら、「第三者」、「善意の第三者」、「背信的悪意者」、「過失により知らなかった者」、「重大な過失により知らなかった者」、「知ることができた者」「全く法律関係にない者」などが頭の中でコンフューズして、試験中や問題を解いている際、混乱して頭の中が真っ白という状況に陥ってしまうことがよくありました。

第三者・善意の第三者

以上を念頭に、民法177条の「第三者」の解釈をみていきましょう。

民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない

この民法177条の「第三者」は、「善意の第三者」も、「悪意の第三者」含まれるというのが結論です。しかし、「悪意も含まれるのだから、すべての悪意の第三者もこの第三者にあたるんだ」という解釈は間違いで、「背信的悪意者」というべき者などは含まれないという解釈も必要となります。ここで、また分かりにくいのは、例えば、契約したのはほぼ同時だけど、先に契約した者がまだ登記をしていなかったから、それを知った上ですばしっこく先に登記した者は、「卑怯な悪人だから、「背信的悪意」と言えるんじゃないのか」という考えが勝ってしまいまたもやもやするのです。「他に契約した者がいることを知っているのに、先に登記しても救われるなんて。いかにも悪者なのに、なんということか。」と、思われるかもしれませんが、ここでは、当事者間においては、経済行為は早い者勝ちの原則が適用され、この場合は背信的悪意とは評価しないのが通常です。卑怯者を救うのかという気持ちも分かりますが、ここでは、当事者の関係だからと割り切って理解するようにしましょう。そうしないと、試験の時、巧みなひっかけ問題でこれまたつまずきます。

では、この民法177条の第三者とは、どう考えたらいいかというと、判例をそのまま覚えておくのが最も、ひっかからない対策だと思います。 判例は以下の様に示しています。
民法177条の第三者とは、

「 当事者もしくはその包括承継人以外の者で,登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者 をいう」 

としています。つまり、これ以外は、第三者にはあたらないと考えるのです。

次に、第94条【虚偽表示】の場合の、「善意の第三者」は、どう解釈したらいいのでしょうか
第94条【虚偽表示】
① 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
② 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

ここでは、判例は次のように判示しています。
民法94条2項の 「善意の第三者」とは、
虚偽表示の当事者及びその包括的承継人以外で、虚偽表示の外形を基礎として、新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者」(最判昭42.6.29)

ここでも、これ以外は、「善意の第三者」にはあたらないと考えるのです。
つまり、包括的継承人は、ここでいう「善意の第三者」にはあたりませんし、全く関係のない枠外の「第三者」例えば、通りすがりの人や当該契約関係とは関係のない別の契約の人も「善意の第三者」にはあたらないのです。

試験のひっかけでは、一見さも、「善意の第三者」に該当しそうな、「部外者」、つまり、利害関係のない者を出してくることがよくあります。また、よく頭を悩ます設定は、前述の、軽過失や重過失の有無が絡んできたときです。虚偽表示の場合の、「善意の第三者」には、軽過失があっても「善意の第三者」に含まれます。つまり、善意無過失までは求められないということです。

しかし、94条2項の類推適用の側面で見た場合は、事情が変わってきます。

①意思外形対応型の場合は、善意のみで無過失までは求められない
②意思外形非対応型の場合は、善意無過失まで求められる。ということなどです。

こちらは、やや深い理解が必要なため、行政書士試験勉強としては割愛していい部分といえます。

以上の他、
錯誤の論点で登場する保護される「善意の第三者」は、「善意無過失第三者」のみが対象ですし、詐偽の論点で登場する保護される「善意の第三者」も、「善意無過失第三者」のみが対象となります。また、注意すべきは、相手方」は、「第三者」ではなく当事者だということも、当たり前ですが、コンフューズしないように整理しておく必要があります。強迫の論点の場合は、特殊で、「善意無過失の第三者」は、原則保護されない。つまり、被害者優先という点は、皆さん意外とつまずかないようです。

行政書士中川まさあき事務所