
個人事業でスタートした事業を法人化したい、あるいは新たに法人として事業を始めたい創業者にとって、法人設立は大きな第一歩です。しかし「どの順番で動けばいいか」「どの書類をそろえればいいか」など、不安を感じる方も多いでしょう。本記事では、特定行政書士・宅建士の視点を交えながら、北陸・福井の創業者に向けて、法人設立の基本ステップと必要書類を、株式会社・合同会社の両パターンを念頭に、実務に即した形式で解説します。
第1章:法人の形態を決める(株式会社 vs 合同会社)
まず、法人設立の前に検討すべきは「どの法人形態にするか」です。最も一般的なのは株式会社と合同会社(LLCに近い形)です。
- 株式会社:社会的信用が得やすく、株式発行や増資が柔軟にできる反面、設立コストや手続きがやや複雑になる。
- 合同会社:設立コストや手続きが比較的簡便で、運営の自由度も高い。ただし、信用面で株式会社に劣る印象を持たれるケースもある。
たとえば、福井で不動産業を営もうというケースを想定すると、信用を重視する取引先が多い業務では株式会社を選ぶ場合が多いですが、小規模・低コストで始めたい場合は合同会社も有効な選択肢になります。
法人形態を決めたら、商号、本店所在地、事業目的、資本金額、発起人・役員構成、決算期などの基本事項をあらかじめ決定しておく必要があります。
第2章:設立準備と定款作成・認証
2‑1 基本事項を定める
設立の基本事項とは、先ほど挙げた商号、本店所在地、事業目的、資本金、株式数、発起人・出資比率、役員構成、決算期などです。特に本店所在地は、福井県内であれば地元住所を使えるかどうか(賃貸オフィスや自宅兼事務所等)も事前に確認しておく方がよいでしょう。
2‑2 定款の作成
定款は、会社の基本ルール(憲法のようなもの)を記載した書面です。商号、目的、株式の発行、機関設計(取締役会設置かどうか)、資本金の額などを含みます。株式会社の場合は公証人の認証を受けた定款を準備することが必須です。合同会社の場合は認証不要なので、この段階での負担が軽くなります。
2‑3 定款認証(株式会社の場合)
株式会社を設立する場合、作成した定款を公証役場で認証してもらう必要があります。認証には手数料がかかります(条件により:3万~5万)とともに、定款の謄本が公証人によって正式なものと認められます。合同会社ではこの認証手続きは不要とされています。
第3章:資本金の払込と払込証明書作成
定款認証が終わったら、定款に定めた通りの資本金を発起人の個人口座または設立予定の法人口座に振り込みます。この銀行振込を「払込」と言います。
この払込を証明する書類(払込証明書)が必要です。通帳の表紙、表紙裏、振込内容が記帳されているページの写しを添付するなど、銀行記録で事実を証明できるようにしておきます。
第4章:設立登記の申請(登記書類の提出)
資本金払込後、設立登記の準備を進めます。この登記申請が完了すれば法人が法的に成立します。
4‑1 登記申請書の作成
登記申請書には、商号、本店所在地、資本金、発起人・取締役、定款の写し、添付書類一覧などを記載します。法務局のウェブサイトから様式をダウンロードして使うこともできます。
4‑2 登録免許税の納付
設立登記には登録免許税を納付する必要があります。通常、株式会社では資本金の0.7%が税額となりますが、最低額として15万円が定められています。合同会社の場合は6万円前後が目安とされます。
4‑3 添付書類の準備
登記申請には多数の添付書類が必要です。以下は一般的な書類例です
- 定款(認証済謄本)
- 発起人決定書または発起人全員の同意書
- 設立時取締役・代表取締役の就任承諾書
- 取締役等の印鑑証明書(有効期限3ヶ月以内のもの)
- 資本金払込証明書および通帳写し
- 印鑑届出書(法人実印の届け出用)
- 登記すべき事項を記載した別紙または記録媒体(CD‐R等)
- 本人確認証明書(就任承諾書に押印した印鑑について印鑑証明書が付されていない場合など)
ただし、会社の機関設計や設立方式によって不要な書類もありますので、法務省の定めるルールや管轄法務局の確認が必要です。
4‑4 提出方法と手続き後の流れ
書類一式をそろえたら、法務局に対して「登記申請」を行います。申請はオンライン(登記・供託オンライン申請システム)または窓口提出が可能です。法務局で不備がなければ、約1〜2週間で登記完了となります。
登記が完了すると、会社の登記事項証明書や会社実印の証明書を取得でき、銀行口座開設や各種契約を法人名義で行えるようになります。
第5章:設立後に必要な届出・手続き(税務・社会保険ほか)
法人設立後、事業を適法に運営するためには、税務署や自治体、社会保険関連機関への各種届出が必要です。一般的な届出の例は以下の通りです。
- 法人設立届出書(設立登記日の翌日から2か月以内に税務署へ提出)
- 源泉所得税関係届出書
- 消費税関係届出書
- 青色申告の承認申請書(設立日以後3ヶ月以内)
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 社会保険・労働保険の新規適用届出(従業員を雇う場合)
- 地方自治体への事業開始届出、固定資産税・事業所税関係の届出など
これらの届出を忘れると罰則や後続の登録ができなくなる可能性もあるため、設立段階で漏れなく準備しておきましょう。
第6章:一般的な導入事例(創業者 A 社のケース)
ここでは、福井県内に設立を検討した架空の企業「A社」を事例に、どのような流れで法人設立を進めたかを示します。
A社(ITサービス業)設立の流れ/概要
- 創業者:福井在住、個人事業からのステップアップ
- 法人形態:合同会社(初期費用を抑えて運営したいため)
- 出資金:300万円
- 役員構成:代表社員 1 名(創業者)、業務執行社員として他メンバー 1 名を予定
設立ステップ/実際の流れ
- 基本事項を決定(商号「A社合同会社」、本店所在地、事業目的、決算期など)
- 定款を作成(合同会社のため認証不要)
- 創業者の個人口座に出資金 300 万円を払込、払込証明書を作成
- 登記申請書類を準備:登記申請書、定款写し、就任承諾書、印鑑届出書、払込証明書、登記すべき事項記載書面など
- 登録免許税を 6 万円で納付(合同会社の標準額)
- 法務局に提出・登記申請(書類不備がなければ約1週間〜10日で登記完了)
- 登記後、法人設立届出書、源泉税届出、消費税届出、社会保険届出などを実施
- 法人名義で銀行口座を開設、事業を正式スタート
このように、合同会社を選ぶことで認証手続きが不要となり、比較的スムーズに法人設立を進められます。もちろん株式会社を選ぶ選択も可能ですが、初期コストと手間を見極めて選ぶことが重要です。
第7章:設立時に注意すべきポイントとリスク(特定行政書士・宅建士の視点から)
7‑1 法人名・商号の重複調査
商号(会社名)が既存法人と重複していると登記できないため、事前に法務局や商工会議所データベースで商号調査を行うことが重要です。
7‑2 事業目的の記載方法と網羅性
定款に記載する事業目的は、将来必要となりうる業務も含めた余裕ある記述が望ましいですが、あまりに広すぎると不明確・無効と判断されるリスクもあります。
7‑3 印鑑証明書・署名・有効期限管理
印鑑証明書には有効期限(通常3ヶ月以内)があるため、取得日を確認して設立手続きに使えるか注意が必要です。また、署名方法や押印位置なども慎重に扱う必要があります。
7‑4 不動産・宅建業界特有の注意点
不動産業や賃貸管理業を行う法人では、許認可(宅地建物取引業免許など)を取得する必要が生じます。その際、法人設立時点で代表者・資本金・所在地などが適法要件を満たしているかを事前に確認しておくことが重要です。
7‑5 設立後の定期的な見直しと更新
定款内容や役員構成、事業目的などは、事業の変化に応じて定期的に見直しが必要です。また、税制改正や法制度変更にも対応できる体制を整えておくべきです。
まとめと次のステップ
法人設立は、創業者にとって大きなチャレンジですが、適切なステップと書類準備を行えば、スムーズに法人化を進められます。特に福井など地方の地域では、地元拠点の選定や信用力確保を念頭に置いた法人設立が求められます。
設立形態の選定、定款の作成・認証、資本金払込、登記申請、そして設立後の各種届出という流れをきちんと押さえつつ、法的・契約的な注意点もフォローしておくことが重要です。
もし設立手続きや書類作成、許認可・業界特有のルール対応で不安がある場合、特定行政書士・宅建士の専門家としてのサポートが可能です。福井エリアの創業者の皆さま、ぜひご相談ください。
行政書士中川まさあき事務所(福井県越前市)