【特定行政書士が解説】同族企業の全体像を把握するということ

〜福井県の企業支援に取り組む視点から〜
福井県には、親族や家族を中心に経営されている「同族企業」が数多く存在しています。地域に根ざした製造業、建設業、小売業、不動産業など、企業の形態はさまざまですが、その根底には「経営と家族の密接な関係」が存在しており、単なるビジネスの枠を超えた複雑な構造を形成しています。
同族企業の支援に取り組む上で重要となるのが、「全体像の把握」です。表面上の法人登記や決算書だけでは見えない、経営実態や財産構成、人間関係までを含めて俯瞰的に捉える力が、経営支援の成否を分けるのです。
本記事では、特定行政書士・宅地建物取引士という知識や財務処理の経験を活用し、同族企業(広義のファミリー企業等を含む)を支援する際に不可欠な「全体像把握」の視点について、具体的な切り口と方法を交えながら解説します。

同族企業とは何か?そして、なぜ見えづらいのか?

一般的に「同族企業」「同族会社」「ファミリー企業」といっても、法律上明確な定義はない(会社法その他法律上の定義により解釈が分かれる)ものの、実務上は次のような特徴をもつ企業を指します。
株式の大半を経営者一族が所有している
経営陣の多くが親族
会社の意思決定が事実上、家族内で完結している
将来の後継者も家族の中から選定される傾向がある
同族企業には、信頼関係に基づく迅速な意思決定や、長期的視点での経営という強みがあります。一方で、経営判断が「見えにくい私的感情」に左右されたり、外部への情報開示が不十分だったりする傾向があり、結果的に実態の把握が困難になるケースが多く見られます。
グループ全体で捉える視点が不可欠
福井県の同族企業では、以下のような複数法人体制が一般的に見られます。
本業の法人(製造業・建設業など)
資産管理会社(不動産保有・貸付業)
個人名義で保有する不動産や資金
別事業用の関連会社や分社化法人
このような構成になると、それぞれの法人を単体で見ているだけでは、経営の実態や財務リスク、相続・承継に関する問題点が見えなくなるのです。
たとえば、資産はA社に集中しているのに、借入はB社が担っているというケース。A社の資産状況しか見なければ「安定した企業」と思われますが、グループ全体で見るとバランスが崩れている、ということもあります。

会計ソフトによる「連結合算」のすすめ

ここで活用したいのが、会計ソフトによる「連結合算」です。近年の中小企業向け会計ソフトには、複数法人を統合的に管理・分析できる機能が搭載されています。これを利用することで、グループ全体の以下のような実態を可視化できます。(但し、業種や企業形態によっては連結合算に馴染まないケースもあります。ここではあくまでも経営戦略上の目安として考えることになります。)

総資産・総負債の把握
関連会社間の貸付・借入残高
全体としての売上・利益率
キャッシュフローの偏在と改善余地
法令上の節点(例えば資金の不透明な移動)への予防策
単体決算の数字では見えてこない“経営の全体像”を、会計データの横断的分析によって把握することで、経営判断や相続設計、資産移転、許認可の維持にも大きく寄与します。

許認可・相続・不動産の観点からの整理

許認可は「法人単体」だが、実質はグループ判断が必要
建設業や運送業、旅館業、飲食業など、各種事業に必要な許認可は基本的に法人ごとに発行されます。しかし、実態上はグループ全体で一括りして解釈されていることが多く、一法人の代表や専任技術者が変更になるだけで、事業全体に支障が出ることもあります。

許認可の観点

行政書士として、グループの内部構造を把握しながら、
誰がどの法人の許可維持要件を満たしているか
相続や引退により許可が失効するリスクがないか
許認可の再取得・変更手続きが必要か
といった点を整理・助言することが重要です。

相続の観点

相続対策も“グループ視点”で
同族企業の相続では、「会社の株式」と「事業用資産(不動産等)」が中心になります。ここで重要なのは、資産の名義と活用状況が一致していないことが多いという点です。
会社名義の土地を個人が使用している
社長個人の名義で会社の工場を建設している
共有名義になっているが、利用実態は会社側にある
これらを整理しないまま相続が発生すると、相続税評価・納税資金・所有権移転・事業継続のすべてに問題が波及します。

不動産の観点

不動産に関しては宅建士としての知識を活かし、
所有者・使用者・契約内容の整理
相続税対策としての収益化・活用計画
名義変更や賃貸借契約の明文化
売却・分割・信託の選択肢提示
など、実務的かつ合法的な支援が可能です。

家族会議の設計と専門家の関与のすすめ

同族企業における経営支援・相続支援で最も難しいのは、「家族間の調整」です。特に福井県のような地域密着型の企業では、「親子間で本音を言えない」「兄弟で意見が対立する」「嫁いだ娘やその配偶者が絡んでくる」といったケースが頻出します。
そこで活用したいのが、家族会議です。特定行政書士としての立場から、中立的なファシリテーターとなり、
議題の明確化(事業承継・遺言・分割など)
合意形成の支援
議事録・合意書の作成
公的手続きへの橋渡し
などを行うことで、親族内の感情的対立を緩和し、論点を明確化することが可能になります。

おわりに:専門家の横断的支援が未来を支える

同族企業の支援には、単に手続きや契約を代行するだけでなく、企業・家族・資産の全体像を立体的に捉える力が求められます。特定行政書士としての法的視点、宅建士としての不動産の専門知識、財務管理経験を最大限に生かした会計ソフトによる財務の可視化に関する助言、さらには中立的な第三者としてのコミュニケーション力。これらを融合させることで、同族企業が抱える「見えにくい問題」に光を当て、安心して次世代へ事業をつなぐ支援が可能になるのです。尚、税務に関するご相談には法律上応じることができませんので、適宜、事案に応じて税理士先生をご紹介するなどの対応も可能です。

行政書士中川まさあき事務所(福井県越前市)