日本で外国人が通訳や翻訳業務に従事するには、在留資格「技術・人文知識・国際業務(以下「技人国」)」がよく用いられます。 ただし、この「通訳・翻訳」という業務は、他の技人国対象業務と比べても審査上の判断が厳しくなることが多いため、学歴、実務経験、業務量、報酬、契約先の信頼性など、複数の要件をクリアする必要があります。 北陸地方(福井、石川、富山)で申請を行う場合でも、一般的なルールを理解したうえで地域的な留意点(たとえば地方局の運用傾向、地元企業との関係性など)を踏まえることが重要です。 本稿では、行政書士または申請取次行政書士の立場で、通訳として技人国を取得する基本的な条件と注意点を整理します。

1. 技人国ビザと「通訳・翻訳業務」が該当する理由

1.1 技人国ビザの概要と適用範囲


「技術・人文知識・国際業務」は、出入国在留管理庁が定める就労系在留資格の一つで、主には以下のような業務が想定されています:理学・工学等の技術分野、法律・経済・社会学等の人文系分野、そして外国文化に基づく思考・感受性を要する「国際業務」分野。
通訳・翻訳業務は、「外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務」に該当するため、技人国ビザの適用対象となります。
ただし、他の業務(たとえば通訳ガイド、観光案内など)と異なり、審査で業務範囲の判断が厳格になることがあります。

1.2 通訳・翻訳業務の中で注意されやすい点


通訳や翻訳は、一見「語学さえできればよい」ように思われがちですが、審査では以下のようなポイントが重視されやすいです:

  • 業務内容が「単純語学対応」や「補助的作業」にとどまらず、「専門性・高度性」を伴っているか
  • 継続的・安定的な業務量が見込まれるか
  • 契約先企業との契約実態が明確で信頼できるか
  • 報酬・賃金が日本人に準じ、適正か
  • 通訳・翻訳業務以外に業務を兼務する場合、その兼務の割合が大きすぎないか こういった点を、申請書類で論理的かつ客観的に説明できるよう準備する必要があります。

2. 通訳・翻訳業務で技人国を取得するための主な条件

通訳・翻訳業務における技人国申請では、一般の技人国要件+通訳業務特有の要件が課されるため、以下の条件を整理しておきます。

2.1 学歴要件または実務経験要件


通訳・翻訳で技人国を申請する際には、主に2つのルートが考えられます:

A. 大学(または短大・専門学校)卒業ルート

  • 日本国内・国外の大学・大学院・短大を卒業していること。
  • この学歴さえあれば、通訳・翻訳業務に関しては、実務経験3年の要件が免除されるケースが多いとされています。
  • 専門学校卒業のケースでは、専攻分野と通訳・翻訳との関連性が認められることが求められることがあります。
  • 学歴で条件を満たさない場合は、通訳・翻訳分野での実務経験が少なくとも 3年以上 必要とされることが一般的です。

B. 実務経験ルート

  • この経験は、実務として継続的に行っていたものである必要があり、学業中のアルバイト等は原則含まれません。
  • なお、実務経験は必ずしも「通訳・翻訳業務そのもの」である必要はなく、語学指導、広報・国際関係業務、通訳補助業務など関連業務として認められることもあります。

2.2 在留資格該当性・上陸許可基準適合性


単に学歴や経験を満たすだけでは不十分で、以下のような要件もクリアする必要があります。

  • 在留資格該当性:通訳・翻訳が「専門的な業務」であることを説明できること。「単なる語学対応」では専門性が認められにくい。
  • 上陸許可基準適合性:法令で定められた基準(学歴・経験・契約関係など)に適合すること。
  • 受入れ機関要件:通訳者を雇用する企業・団体が、安定性・継続性・社会的信用性を備えていること。雇用能力があることや合理的な必要性が論理立てて説明されること。
  • 契約条件:本邦の公私の機関との契約に基づいて業務を行うこと(雇用契約、委任契約、嘱託契約など。継続性が必要)
  • 報酬要件:通訳者として支払われる報酬・賃金が「日本人と同等以上」となること。過度に低い水準では許可を得づらい。

2.3 在留期間・更新・変更の要件

  • 技人国ビザの在留期間は、3ヶ月・1年・3年・5年のいずれかで付与されます。
  • 新規申請時は 1 年で認められることが多く、更新を重ねて、3年または5年に延長される例が一般的です。
  • ビザ変更申請(たとえば留学生 → 技人国)を行う場合、在留中の状況、転職先企業の条件、業務内容の整合性などがチェックされます。
  • 更新時には、通訳業務を着実に行っている実績、業務量、報酬の適正性、契約の継続性などを証明する書類が求められます。

3. 通訳ビザ申請時に重視される観点と注意点

技人国で通訳・翻訳業務を行う場合は、単なる条件クリア以上に「説得力ある論理構成と証明力」が求められます。以下は実務上、行政書士として注意すべきポイントです。

3.1 業務量・業務頻度の証明


通訳・翻訳業務が単発・断続的ではなく、継続的に業務を行う「専門業務」であることが必要です。
申請書には、通訳・翻訳を行う割合(何%か)、年間作業時間見込み、案件数、契約書・発注書などを示すと説得力が増します。
また、通訳・翻訳以外の業務を兼務する場合、その兼務割合が高すぎると、通訳業務部分が軽く見られるリスクがあります。

3.2 契約実態と契約先の信用性


雇用先企業や発注先団体が安定性・信用性を持っていることを、財務諸表、事業概要、契約件数、実績、事務所規模などで示せると望ましいです。
地方、特に北陸地域では、地元企業が小規模なケースも多いため、契約先の規模や信用を補強する資料(取引先リスト、業界取引実績、契約の継続性など)を揃えることが重要です。

3.3 報酬要件と日本人待遇準拠性


通訳者として受け取る報酬・給与が、日本人の同職種と比べて極端に低いと認められにくいため、報酬設定には注意が必要です。
報酬の根拠(見積書、発注書、契約金額、支払実績など)を明示できるようにしておくことが望ましいです。

3.4 日本語能力・言語能力の補強


通訳・翻訳業務を行う以上、日本語への理解・運用能力が前提となります。
実際には日本語能力試験(JLPT)N2 以上を有していることを要件とする例も多く見られます。
特に、学歴が海外であり日本語履修歴が薄い場合には、日本語授業履修歴・合格証などを用意しておくと補強になります。

3.5 書類の整備と論理構成


申請書、招聘理由書、業務内容説明書、組織図・業務フロー、日本語能力証明、契約書、発注明細、過去実績一覧など、整然とした資料構成が求められます。
特に通訳・翻訳業務に関しては、その業務性を理解できない審査官がいる可能性を念頭に、用語や流れを平易に説明しておくことが望ましいです。

3.6 地方局運用・北陸ならではのポイント

  • 地方出入国在留管理局では、通訳・翻訳業務の審査には慎重な判断がなされる傾向があります。特に地元企業が小規模な場合、契約先の信用性・業務量を強く問われることがあります。
  • 北陸地方では、都市部と比べて国際取引機会がやや限定されがちなので、契約先が県外・首都圏であることを示す資料(取引関係、通信ログ、発注元所在地など)を準備しておくと有効です。
  • 加えて、地方では「地域性補正」が働く可能性もあり、他地域で認められた条件がそのまま通らないケースもありますので、余裕をもった準備と事前相談が望ましいです。

4. 申請手続き上の注意点と申請取次行政書士の役割

通訳として技人国を取得しようとする外国人にとって、行政書士(特定行政書士、申請取次行政書士を含む)が注意を払うべき点を整理します。

4.1 事前相談とスクリーニング


通訳・翻訳案件を扱う候補者に対し、学歴・実務経験・言語能力・契約予定先などを事前に詳しくヒアリングし、申請の見込みを評価します。
特に、契約先の信用性・業務量・発注実績等を可能な限り確認し、不備があれば改善策を助言します。

4.2 書類チェックと漏れ防止


通訳申請では、他の技人国案件に比べて書類のつじつま・論理性が重視されます。たとえば、業務割合が記載されない、契約書が曖昧、発注実績が不明確といった小さなミスで不許可となるリスクがあります。
申請取次行政書士として、業務割合、契約先、報酬構造、業務実績などを余裕をもって記載・整理すべきです。

4.3 変更申請・更新申請時の戦略


通訳者が就職後、別業務に移る、契約先を変更するなどの場合、変更申請が必要となります。その際、通訳業務の継続性・契約の引き継ぎ・業務割合などの説明が鍵になります。
更新時には、実際に通訳業務を行った実績(翻訳量、通訳件数、契約書、請求書、納品物など)を証明できる資料を過去分も含めて保管し、提出できるようにしておくべきです。

4.4 協議・補正対応力


申請後、補正(追加資料提出)の照会が来ることがあります。特に通訳・翻訳業務では、「業務数が足りないのではないか」「契約先の信用が十分か」「報酬が妥当か」などの理由で追加資料を求められやすいです。
事前に補正対応案を想定しておき、補正期間内に迅速に応答できる態勢が重要です。

5. まとめ:北陸で通訳業務を技人国で行うために押さえておきたい点

以下、北陸地方で通訳(翻訳含む)を技人国ビザで行うため、特に注意すべきポイントを再整理します:

  1. 学歴または実務経験を確保しておくこと
    大学卒業があれば実務経験要件が免除になる可能性が高い。学歴がない場合は通訳・翻訳分野での3年以上の実務経験を証明できるように準備すること。
  2. 業務量・継続性をしっかり説明できる体制構築
    通訳・翻訳業務の割合、年間予算、案件見通し、兼務割合などを明確に文書化・見積もること。
  3. 契約先と報酬構成を客観的に示す
    契約書・発注書・見積書・請求書・支払実績などを整備し、通訳者としての合理性を説明できるようにすること。
  4. 日本語能力・言語能力の証明を補強
    JLPT 等の公的証明があれば有利。日本語学習履歴、取得済証なども添付するとよい。
  5. 地方局運用と地域性を念頭に置く
    北陸地域では、契約先規模や信用性が審査で重視される可能性が高いため、首都圏や他地域との契約実績、遠方企業との連携関係などを示すと審査上評価を得やすい。
  6. 申請書類・補正対応を念入りに準備
    通訳・翻訳という分野は判断に幅があるため、補正対応余力を持たせた書類構成と論理説明を準備しておくことが不可欠です。
  7. 行政書士/申請取次行政書士の活用
    通訳ビザ申請は審査判断が細かくなりやすいため、経験豊富な行政書士や申請取次行政書士に相談・依頼することはリスク低減につながります。 北陸という地域性を考えると、業務機会そのものが都市部に比べやや限られることもありますが、リモート通訳・翻訳契約、県外企業との連携、オンライン発注先との契約などを戦略的に活用すれば、技人国を通じて通訳業務を行う道は十分開けます。 通訳を志す方、あるいは通訳人材を受け入れたい企業に向けて、法的適格性・申請戦略を事前に整えておくことが成功の鍵です。ご希望があればお知らせください。

行政書士中川まさあき事務所(福井県越前市)