ある店舗・旅館・ホテル等を手に入れたいと考えたとき、①会社まるごと買収し、事業を引き続き継承して営むという方法と、②店舗・旅館・ホテル等の不動産のみを買い取り、新たに、自社において許認可を取得し、改装などを経て事業を営むという形の大きく2パターンに分かれると思います。
①の場合は、相続に例えれば包括承継のようなもので、対象の企業の負債も資産もすべてを買い取って引き継ぐということになるため、所謂、隠れた負債や隠れたリスクがあり、よほど時間をかけてじっくり調査をしてから判断するといった対応になります。一方、②の場合は、店舗不動産等に対する相手企業の知名度等も今後に影響を与える場合もありますが、基本的には、買取対象の不動産の価値を総合的に評価するだけでよいことになります。もちろん、買取後の売上が今後計画通り増加していくだけの価値を生みだすことが可能かどうかという点は別問題でありますが。
ここでは、この2パターンを考えるにあたり、ホテルの買収を例に記述したいと思います。
旅館業法上のホテルを買収する場合
旅館業法上のホテルを営む対象先の場合には、①、②どちらも事情に応じた対応が想定されます。どちらかと言えば①よりも②の選択が一般的かもしれません。いずれにしても、対象不動産の価値と、抵当権設定の有無と残債、現在の営業の状況、企業買取する場合の価格と財産・負債の状況、繰越剰余金等の状況、欠損金の状況、物件周辺の交通事情と、道路計画等都市計画の有無などを総合的に調査の上、買収価格と今後の売上見込みや、立地の将来性がそれに見合ったものかどうかを判断していくことになります。その際、買取後の改修計画や保守メンテナンス計画がどの程度になるかについても、よく吟味しておく必要があります。買収後、隠れた瑕疵が存在しそれが今後の運営の足かせになることも十分考えれらえるからです。また、改修にあたっては、大規模なものとするか、中小規模なものにとどめるかという判断も必要になります。物件の見極めの際には、設備概要など専門家により細かなチエックや評価が行われ全体としての評価価格を算出していくことになりますが、なにより重要なのは、売上の増大が継続して見込めるかどうかにかかっています。
風営法上のホテルを買収する場合
風営法第2条第6項の 「店舗型性風俗特殊営業」のうち、4号 専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。以下この条において同じ。)の用に供する政令で定める施設(政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるものに限る。)を設け、当該施設を当該宿泊に利用させる営業を公安に届出して営業するホテル、所謂ラブホテルに関しては、前述の旅館業法上のホテルの場合とは少し勝手が違いますので注意が必要です。
結論としては、引き続き風営法による営業を続ける場合には、①のやり方で、会社まるごと(風営法の届出による営業権そのもの)買い取りして、公安委員会への風営法上の届出を継承する形で営業を継続する以外方法がないということになります。つまり、自社が新たに届出をして同法による営業はできないということです。既存の設備と届出の継続性をもってその範囲内で営業を継続する以外にないのです。当然会社代表者が代わる訳ですから、10日以内に代表者変更の届出を公安に提出する必要があります。この届出は、ある意味厳格なものになりますから、無届けや遅延は許されず、場合によっては、厳しい行政処分があります。このように、原則、建て替えして引き続き営業することなどもできないとされており、既存の同法上のホテルは全てそのような対応をとる以外にすべがないとされています。この背景には、2011年1月1日に風営法[政令改正]が施行され、所謂ラブホテルの経営者は、「新法ホテル」として旅館業法上の許可で営業を継続するか、「4号営業ホテル」として届出を行なうか、という選択肢を迫られて以降今日に至ってるようです。従って、②の選択をした場合には、その時点で、風営上の営業は必然的に一旦終了となり、旅館業法上の許可を経て、新たな事業形態で旅館業法上のホテルとして営業を開始する選択肢か、まったく別の用途を模索するということになります。どちらにしても、風営法の趣旨に則り、健全な経営をすることが治安の安定にもつながり、外国人観光客などからの支持にもつながると考えられます。
まとめ
このように、「事業の買収」と「不動産物件等の買取」との関連性は、前述のような例からも見て取れるように、どちらを選択しても、それぞれに利点や欠点があります。しかし、投資先との良好な関係性の構築は、選択にあたっての一番大切にしなければならない項目ではないかと思います。その関係性が構築されてはじめて最善の選択ができるということになります。これを、飲食店店舗や、一般テナントビルに置き換えても同じことが言えます。買う側にも売る側にも、それぞれに歩んできた道があり、歴史と品格があり、プライドがあるのです。