ホテル・旅館・店舗を取得する際の2つの方法|事業承継と不動産取得の違いを行政書士が解説
店舗・旅館・ホテルなどを取得して事業を始める場合、大きく分けて次の2つの方法があります。
- 会社(法人)をまるごと買収し、事業そのものを引き継ぐ方法
- 建物・土地などの不動産のみを取得し、自社で新たに許認可を取得して事業を行う方法
どちらを選ぶかによって、引き継げるもの・調査すべき内容・リスクの性質が大きく異なります。今回の記事では、特に「ホテル」を例に、旅館業法ホテルおよび風営法4号営業(いわゆるラブホテル)の扱いを整理しながら詳しく解説します。
1.方法①:会社まるごと買収する(事業の包括承継)
会社買収(株式譲渡)を行うと、次のような要素を包括承継します。
- 資産(不動産・設備・現金・売掛金)
- 負債(借入金・未払金・保証・裁判リスク等)
- 既存の取引関係
- 許認可・営業権
- 従業員の雇用関係
●メリット
- 許認可や営業権をそのまま引き継げる
- 営業を止めずに継続できる
●デメリット(最大の注意点)
- 隠れた負債・訴訟リスク・税務問題なども丸ごと承継する
- デューデリジェンス(財務・法務調査)に多大な時間とコストがかかる
事業を「すべて」引き継ぐ以上、慎重な事前調査が不可欠です。
2.方法②:不動産のみ買い取り、自社で許認可を取得する
もう一つの方法は、建物・土地などの不動産だけを取得し、許認可を取り直すというものです。
●メリット
- 前オーナーの負債・リスクを引き継がない
- 不動産価値に基づきシンプルに評価できる
- 自社のコンセプトで事業を再構築できる
●デメリット
- 許認可を一から取り直す必要がある
- 前オーナーの実績・知名度が活かせない場合がある
不動産価値の評価、改修計画、将来の売上見込みなどを総合判断する必要があります。
3.【旅館業法】ホテルを購入する場合のポイント
旅館業法ホテルの場合は、①・②のいずれも可能です。買収判断の際には、以下のような項目を調査します。
- 不動産価値・抵当権の有無
- 営業実績・稼働率・お客様評価
- 買収価格と資産・負債のバランス
- 繰越欠損金・税務上の状況
- 交通アクセス・都市計画の動向
- 設備・建物の状態(大規模修繕の必要性)
特に、買収後に判明する隠れた瑕疵や修繕負担は経営に大きな影響を与えるため、専門家による建物・設備調査が必須です。
4.【風営法】4号営業(ラブホテル)の扱いは旅館業法ホテルと大きく異なる
風営法第2条第6項4号(店舗型性風俗特殊営業)は、いわゆる「ラブホテル」を指します。この場合、旅館業法ホテルとは全く異なる制約が存在します。
●結論
ラブホテルの営業を継続する場合、会社まるごと承継(包括承継)が一般的かつ現実的な方法となる。 新規で4号営業の届出を行うことは、法令上明確に禁止されているわけではないものの、立地規制・構造要件・条例等により新規取得は極めて難しい(実務上はほぼ不可能に近い) とされている。
この表現が、公的機関の情報・実務上の扱いと最も整合的です。
●理由1:既存の4号営業施設は厳格な継続要件がある
届出は「営業者(会社)」に紐づいており、建物の構造・設備も継続性が求められます。
●理由2:建て替えや大規模改修で構造が変わると、新規扱いになる
その場合、現在の立地規制では届出可能な区域が非常に限られるため、 結果として新規取得はほとんど不可能 となります。
●理由3:2011年の政令改正の影響
この改正以降、ラブホテルは「旅館業法ホテル」か「風営法4号営業」のいずれかを選択する仕組みになり、 新規4号営業の開業は厳しい方向に規制されたという背景があります。
5.不動産だけ取得した場合(②)の扱い
不動産のみを購入した場合、4号営業の届出を引き継ぐことはできません。 そのため、次のいずれかの選択になります。
- 旅館業法によるホテルとして再出発する
- まったく別の用途(商業施設・倉庫・住宅等)へ転用する
いずれも、風営法上の営業は終了し、新規の4号営業届は極めて困難という点が重要です。
6.まとめ:買収方法には双方にメリットとリスクがあり、人間関係こそ判断の軸になる
事業買収(包括承継)と不動産取得のいずれにもメリット・デメリットがあります。
- 事業承継は許認可を維持できるが、負債・リスクも承継する
- 不動産取得はリスクを切り離せるが、許認可を取り直す必要がある
最終的に重要なのは、売り手・買い手双方が築いてきた歴史・経営姿勢を尊重し、 信頼関係の中で最良の選択肢を発見することだと感じます。
これは飲食店・ホテル・テナントビルなど、どの業種にも共通する普遍的なテーマです。物件取得でお悩みの際は、当事務所にご相談ください。
