行政手続法における論点で、意見を求めることを想定する条文がふたつ登場します。
このふたつをよく混同してしまうケースがあるかと思いますので、今回は、このふたつの違いを明らかにしておきたいと思います。
行政手続法10条の「公聴会」は、行政庁が処分をするにあたり、申請者以外の者の利害を考慮することが法令により許認可の要件とされているような場合に、申請者以外の者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない。とする、努力義務にとどめる一方で、
行政手続法39条の「意見公募手続」は、命令等を定める場合には、必ず、広く一般の意見を求めなければならない。とする、義務まで求めている点で大きな違いがあります。
(公聴会の開催等)行政手続法
(公聴会の開催等)
行政手続法第10条より
第10条 行政庁は、申請に対する処分であって、申請者以外の者の利害を考慮すべきことが当該法令において許認可等の要件とされているものを行う場合には、必要に応じ、公聴会の開催その他の適当な方法により当該申請者以外の者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない。
(意見公募手続)行政手続法
(意見公募手続)
行政手続法 第39条より
第39条 命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案(命令等で定めようとする内容を示すものをいう。以下同じ。)
及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見(情報を含む。以下同じ。)の提出先及び意見の提出のための期間(以下「意見提出期間」という。)
を定めて広く一般の意見を求めなければならない。
これらの違いを考えるにあたっては、行政手続法の目的規定に立ちかえって、なぜそれがそのように定められたかについての理由を明確にすることで、すっきりと区分けして理解することができるようになると思います。
何故、10条は努力義務で、39条は義務規定となるかについてですが、この目的規定の「公正の確保と透明性の向上を図る」という論点で考えるようにすることです。
10条においては、もし、処分権限を持つ行政庁に対し、公聴会開催の義務を課すことまでを求めたとしたら、処分決定の裁量権行使に対するハードルが必要以上に高くなりすぎるということにもつながるでしょうし、逆にいえば、そこまで求めずに努力規定にとどめたとしても、十分に公正の確保は保たれると理解できます。
また、
39条においては、行政規則を行政側で単独で決定することができることにすると、公正の確保と透明性の向上が保てないと考えられることから、義務規定にすることでそれを回避できる。
また、逆にいえば努力規定では暴走を許す隙間を与えることにつながり、義務規定にしなければ透明性を保つことが難しくなるいう点も理解できると思います。(※例外的に、意見公募手続が義務づけられない場合も列記している。)
参考までに、目的等を定めた条文第一条を確認頂きたいと思います。
(目的等)行政手続法
(目的等)
第1条 この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第46条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。2 処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関しこの法律に規定する事項について、他の法律に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。
行政手続法 第1条より
余談になりますが、行政不服審査法との目的条文の比較の際、留意するべき点は、行政手続法においては1項後段の、国民の権利利益の保護 と表現されるところ、行政不服審査法においては、国民の権利利益の救済と表現されているところです。保護することが目的なのか?それとも、救済するのが目的なのか?と考えると、腑に落ちると思います。