日本国内における企業や法人の現状は、どのようになっているのでしょうか。これから起業する方にとって、どのような認識を持つことが必要かを考えていく場合の基礎となる参考資料として、帝国データバンクや東京商工リサーチの統計データが公表されていますので、これらの中から主に2点の分析結果を基に現状を把握していきたいと思います。ただし、これら統計データを比較する場合の注意点として、企業数や法人数の範囲や解釈によっては、例えば、総務省と経済産業省による令和3年の経済センサス-活動調査では法人企業は約178万社とされていますが、国税庁が公表している法人の数は284万社となっているように、抽出対象数による違いや全部調査という対象数による違いなど前提条件の根本的な違い、調査目的による違い、解釈の違いや調査の主体は国なのか民間なのかなどの視点において、同じ企業や法人といってもその数は一概に一致するものではないことをまずは認識する必要はあるようです。
注目データ①
ここ10年で創業した企業は20万社、ここ10年で倒産した企業が10万社
創業100年を超える会社は日本全国の企業のたった2%しかありません。
帝国データバンク 日本の企業のトレビアより引用
意外と短い企業の寿命。連鎖倒産に巻き込まれないために、常に取引先の信用情報は知っておきたいものですね。※弊社サービスに収録されている企業より算出(2020年時点)
「帝国データバンクは企業信用調査で集めた精緻な情報をデータベース化しています。それを活用し、意外と知らない日本の企業や経済の実態をご紹介します。」として、様々なデータが公表されていますので、この機会に参考にされるのもいいかと思います。ここでは、特に上記の分析結果に注目してみました。※国の経済は、「国」「家計」「企業」の3つの主体で成り立つとされています。この「企業」には、法人や個人商店等も含まれるというのが一般的ですが、上記の統計データに個人起業のすべての数値が含まれるかどうかについての詳細は不明です。
注目データ②
東京商工リサーチの分析によれば2023年1月から12月までの1年間に、全国で新設された法人は15万3,405社(前年比7.8%増)、休廃業・解散は4万9,788社(同0.3%増)、企業倒産は8,690社(同35.1%増)法人格別の社数は、株式会社が10万1,413社(前年比8.6%増)で全体の約7割(構成比66.1%)、 合同会社は、4万655社(前年比9.6%増)、一般社団法人が6,055社(同1.5%増)、医療法人が1,256社(同4.5%減)、特定非営利活動法人(NPO)が1,209社(同12.1%減)が現状となっています。
東京商工リサーチ ~ 2023年「全国新設法人動向」調査 ~より引用
東京商工リサーチのホームページにおいては、日本経済の「現在」を理解するための手がかりとして、TSRが長年蓄積してきた企業情報、倒産情報および公開情報等に基づき、独自の視点に立った分析をまとめて発表しています。としており、こちらも興味深い切り口で分析結果が公表されていますのでとても参考になります。ここでは、上記の公表結果に注目してみました。
以上、2点の結果を総合すると、データ分析の切り口の違いにより、結果も違ってくるということがわかります。つまり、昨年1年間で法人が15万社設立される一方で、過去10年間で創業した企業が20万社ということは、1年間に設立される法人の全てが新たに創業のために設立する訳ではないということになります。この裏返しとして、法人設立は、新たに創業するためだけではなく、更により飛躍するために設立するためと捉えられているケースの方が多いと解釈していいということになります。今まで、個人商店で経営していたが、法人化してもっと大きく商売をしていこうとか、もっと大きな商いをするためには許認可を受けなければならず、そのためにも会社組織を作って足固めして次のステージに備えよう。というような理由ということになります。
では、次に、法人設立に焦点を絞ってみていく場合、以前記事にもしました下記の数値との比較で押さえていくのも視点としては面白いと感じましたので再掲させて頂きます。つまり、建設業と宅建業は合計で58.5万業者ということですから、国税庁が公開している法人数284万社との比較でいうと、2つの業界で約2割を占めるということになります。経済のけん引役といわれる所以もここでわかります。
国交省の「建設業許可者数調査の結果について」(建設業許可業者の現況令和6年3月末現在)によれば、建設業許可業者数は、479,383業者(内、一般建設業許可業者454,163業者:全体の95%が一般許可、また、個人事業者の割合は14.1%)と前年比4,435業者(0.9%増)の増加となりました。また、建設業許可業者数の最も多かった平成12年3月末時点の数(600,980業者)と比較した業者数の減少は、▲121,597業者(▲20.2%の減少)となりました。業者数の減少が顕著であったのは、平成12年から平成14年にかけての3か年(鳥取西部大地震、有珠山と三宅島噴火、米テロ)、平成17年から19年にかけての3か年(耐震偽装、郵政民営化、年金記録問題)、平成22年から平成24年にかけての3か年(経営破綻、大震災)とみられ、それぞれの年度において、年間15,000~20,000業者が廃業等により減少したことを表しています。
一般財団法人不動産適正取引機構が、令和5年度末時点の数値として公表している統計資料「宅建業者と宅地建物取引士の統計について」によれば、令和6年3月末時点における宅建業者の数は、130,583業者(内、法人117,781業者、個人12,802業者)となっており、平成17年度においては131,251業者であったものが、それ以降徐々に減少傾向にありましたが、平成25年以降は、122,127業者から毎年増え続けているのが現状と言えます。宅建業に従事する従業員数は615,240人(従業員5名未満の事業者数は、109,019業者84.2%)、専任取引士数は、230,114人、宅地建物取引士登録者数は、1,183,307人(内、令和5年度新規登録者数 29,734人:令和4年度とほぼ横並び:統計データがないため、あくまでも予測ですが、実際に取引士証の交付を受けた者の数は登録者総数の3~4割程度にとどまるのではないでしょうか。)といった現状となっています。
では、最後に実際に法人を設立する場合についてですが、「法人格別の社数は、株式会社が10万1,413社(前年比8.6%増)で全体の約7割(構成比66.1%)、 合同会社は、4万655社(前年比9.6%増)、一般社団法人が6,055社(同1.5%増)、医療法人が1,256社(同4.5%減)、特定非営利活動法人(NPO)が1,209社(同12.1%減)が現状となっています。」ということですから、一般的に法人化を目指す場合においては、端的に、株式会社を設立するか、合同会社を設立するかどちらがいいか。ということになるかと思います。答えとしては、ケースによって変わりますし、設立したら後には戻れないので慎重にということになります。合同会社の設立の増加が顕著ですが、これは、コロナ禍がある程度終焉しインバウンド効果を背景に、スピード重視と手軽さから合同会社設立が増加したともいわれています。手軽だからといって合同会社を選択して、出資はするけどあとは店長を役員として迎えて任せきりにしたいということはできないのが原則です。出資者は役員(※業務執行役員を特定することも可能)とイコールの関係に立つからです。その場合には株式会社を選択する必要があるという事になります。
以上、2点の統計結果と更に2種の業種における統計結果をもとに、相互の関連性と今後の予測を試みてきた訳ですが、統計データにはそれぞれ特徴があり、そもそもの条件設定に違いはありますが、ポイントをおさえれば現象分析と将来の予測をたてるにはよい資料となりえますので、今後もこのような統計データには注視していくようにしたいと思います。そして、起業する、会社を設立するということは、生きていくという事に他なりません。様々な統計データはその生きざまや傾向をそのまま表しているとも感じます。
ネット社会になり、会社設立の手段もネットで行えるサービスも出てきましたが、現状の把握と将来の計画とのバランスを取りながら、総合的にかつ適確なアドバイスができる専門家へのご相談を是非ともお勧めしています。そして、今後も社会に大きく貢献していけるような企業を、強力にバックアップさせていただくべく日々精進して参りたいと存じます。