海外法人設立の実務

 日本の法人(株式会社等)が、子会社である現地法人を海外に設立する場合の実務的な流れをまとめてみましたので、よろしければ参考にしてください。
現時点の法制や留意点などにつき、海外現地法律事務所等のご指導に基づき手続きをすることになります。

・・・以下は、海外法律事務所等が日本側の出資者等の委任に基づき行います。・・・・
必然的に、現地法律事務所と日本側との書類のやり取りが必要になり、以前のブログ記事で記載したアポスティーユなどの手続きが必要になります。その記事は上記リンク先からご参照下さい。尚、設立事例は韓国法人設立を前提にしています。

Ⅰ 設立の可否の判断 

まず前提条件として、役員や出資者が欠格事由に該当していないか、出資額は法令の要件にあったものか等の確認を念入りに行います。ここで考慮する点としては、逆バージョン、つまり海外外国人の方が日本国内で許認可取得を前提として法人設立する場合を思い浮かべるとわかりやすいです。その場合は、要件(人・物・金など)を吟味したうえで、その該当性や継続性や事業の安定性などを総合的に検証していくことは既にご承知の通りですが、その逆バーションを海外の法令に沿った形で検証するということになります。

韓国における外国人投資促進法により、「外国人一人当たりの最低出資金は1億ウォン」(2020年現在)と定められているため、日本円で出資者一人(一社)につき1000万円程度は必要ということになります。
  → 外国人投資促進法 で定める「外国人」とは、 

1.外国の国籍を保有している個人。または、

2.外国の法律に基づいて設立された法人。と定められています。

Ⅱ 外国人直接投資(FDI)の申告

新韓銀行(大韓貿易投資振興公社(KOTRA)またはその他の外為銀行)にて手続きを行い、外国人投資申告受理書の発給(申告済証の交付)を受けます。

 【申告時の提出書類】
 ・外国人投資申告書(所定様式)
 ・代理人に対する委任状(韓国内 法律事務所等に事務を委任する場合等)
 ・外国人投資家の国籍証明書(登記簿謄本等)
 ・外国人投機家の印鑑証明書
  

Ⅲ 出資目的物の導入(投資資金送金)

日本本国からは、円建てのまま送金します。着金時の為替レートを適用しウォンに換算される。ウォン建てで送金してはいけない。必ず円建て新韓銀行仮想口座宛て送金します。上記の外国人投資申告書は、資金送金及び受取時の証拠資料として使用されます。
  この際の留意点は、外国人一人当たりの最低出資金1億ウォンを満たす必要がありますので、送金時の為替レートによっては、両替後のウォン建て金額が1億ウォンを下回らないようにしなければなりません。したがって、円建てで送金する場合少し多めに送金するのが通常のようです。(ギリギリの金額で送金しないこと)

Ⅳ 株式納入金納入

 新韓銀行へ資金納入証明書の発行を依頼し、この証明書で法人登記を進めていくことになります。

Ⅴ 会社の設立(商法上の手続き)

日本国内の会社法の会社設立手続きに体系はよく似ていますが、定款(韓国語が原本である必要があり、10億ウォンを超える場合には公証人の認証を受ける必要があります。)を作成するにあたり、商号(ハングルまたは英語)、取締役、大乗取締役、監査役、事業目的、資本金、授権資本金、公告方法(ソウル市内で発行される日刊 新聞(日報):経済新聞を含むなどと記載)、住所、指定取引銀行、営業開始日、決算期、資本金送金予定日などを現地法律事務所とミーティングしながら作成していきます。発起人は1名以上必要です。
創立総会 発起設立の場合は発起人総会を発起人が招集し、創立総会又は発起人総会 で取締役および監査役を選任して定款を承認するようになっています。その後、変態設立事項 現物出資など がある場合の変態設立事項の調査を経て、設立総会が終結した日から2週間以内に取締役の共同申請により会社設立登記を行います。(通常、現地法律事務所などが代理して行います。)

【必要書類】

 ・会社設立申請書(所定書式)
 ・定款(公証を受ける必要がある場合には公証を受けた定款)
 ・株式の引受を証明する書類および株式請約書
 ・取締役と監査役または検査人の調査報告書とその附属書類
 ・創立総会議事録および取締役会議事録
 ・銀行の株金払込金保管証明書
 ・現物出資の場合、検査人報告書または現物出資完了確認書
 ・外国人投資申告受理書の写し
 ・代表取締役、監査役の就任承諾を証明する書面および個人印鑑証明書

【設立費用】

 ・法人成立に関連した資本金登記時の登録税
  一般的に資本金の0.4 %ですが、ソウルおよび 首都圏地域に本社を設置する場合は1.2 %が重課税されます 。
 ・教育税
  登録税の20 %に該当します。
 ・公証手数料および法務士手数料
   上記の費用以外に公証関連手数料、法務士等手数料が別途発生します。

Ⅵ 法人設立申告及び事業者登録(税法上の手続き)

これらの手続は、法人税法および付加価値税法に規定されており、法人設立申告は設立登記日から1ヵ月以内にしなければならず、事業者登録申請は事業開始日から 20 日以内に管轄税務署に登録申請をすることになります。但し、新規事業の場合には事業開始日以前でもできます。

 
 【必要書類】
 ・法人登記簿謄本
 ・定款の写し
 ・事業許可証
 法令により許可を受けなければならない事業の場合に必要であり、一般的な場合には外国人投資申告受理書の写し
 ・株主名簿
 ・賃貸借契約書の写し

Ⅶ 外国人登記企業登録申請(外国人投資促進法上の手続き)

FDIの申告をしたところで、必要書類を添付して外国人登記企業登録申請を行います。2~3日で外国人投資企業登録証が発行されます。

 【申告時の提出書類】
 ・外国人投資企業登録申請書(所定様式)
 ・申告された出資目的物の払込を証明する書類
  (現金出資の場合には外国為替買入証明書の写し1部、現物出資の場合には現物出資完了確認書の写し1部)
 ・事業者登録証の写し1部
 ・新設会社の株主名簿1部
 ・新設会社の法人登記簿謄本1部
 ・委任状(代理人へ依頼する場合)

Ⅷ 企業結合申告

これは、独占規制及び公正去來に関する法律上の手続きで、該当の場合に限り必要な手続きです。

まとめ

 以上、海外(韓国)において新規に子会社を設立するための手続きの概要についてまとめてみました。
必要な現地分の費用は、概ね、出資金以外に登記費用や現地法律事務所手数料など最低300万ウォン~700万ウォン(在籍する士業やサービス体制により大きな差があります。)が必要と見込まれ、その他に現地との仲介者通訳者などの費用や、日本側の手数料を含め概ね1,000万ウォンは必要と考えた方が妥当かもしれません。現地に日本語が堪能で翻訳等の事務や出張などを行える方を確保することが重要なポイントになります。

ランニングコストとしては、現地の事務所等賃借料、水道光熱費、現地会計事務所顧問費用、管理費、現地採用従業員給与、取締役報酬、社会保険料、各種許認可にかかる管理費用、付加価値税を含む各種納税費用その他もろもろが必要となることは言うまでもありません。また、日本側から現地法人へ常駐で役員を送り込む様なケース(その方が日本人であるか、現地の国籍を持つ永住者等かによって対応が異なります。)は、現地の在留許可を取るなどの対応や社会保険、年金等の取扱いにも留意が必要です。これらも、現地の法律事務所等からレクチャーを受けながら会社運営をしていくことになり、日本国側の留意点などについてはこちらサイドの税理士先生や社会保険労務士先生等と相談してすすめていくことになります。